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【イベントレポート】ハードウェアの起業で日本に明るい未来をもたらしてほしいー「Tokyo IoT Monozukuri College 2017」

起業を支援する「Startup Hub Tokyo」では、様々な切り口でイベントを開催しています。5月27日には起業家育成プログラム第1弾「Tokyo IoT Monozukuri College 2017」が開催されました。

「Tokyo IoT Monozukuri College 2017」は、3ヵ月かけて「モノづくり」の基本やプロトタイプの作成、チームづくりから資金調達まで、ハードウェア分野での「起業」に関する実践的な知識を学べるプログラムです。

同プログラムではモノづくり起業 推進協議会会長の牧野成将さん、CAMI&Co.代表取締役の神谷雅史さんをメンターにお迎えしました。今回開催されたカリキュラムの1回目では、「起業とは。IoTとは。資金調達とは」というテーマで、日本におけるIoT事情から、ハードウェア分野での起業についてお話を伺っていきました。

今までインターネットにつながっていなかったものがつながる世界

イベントの前半は、技術メンターを務める神谷雅史さんの、日本におけるIoT事情や、ハードウェア分野での起業についてのお話からスタート。まずは、これから3ヶ月間に渡って開催されるプログラムの主旨や、目的を説明していきました。

神谷さんが代表を務めるCAMI&Co.では、IoTの領域で事業を展開する企業の経営コンサルティングを行っています。数々のIoT領域で事業を展開する企業を見てきた神谷さんは、IoTの領域は今後、海外だけでなく日本でも市場規模が広がる分野だと指摘します。事実、2016年は5兆270億円の国内市場も、2021年には11兆円規模まで膨らむというデータ(※1)が出ています。

神谷「M2Mのようなマシン同士で情報交換を行う閉ざされた世界も、IoTの発展に伴い、インターネットに接続されることで、社会に向け、開かれはじめています。2020年には500億台以上のモノがインターネットにつながると言われているいま、IoTが担うべき役割や、社会に与える影響は今後、加速度的に広がっていくでしょう」

M2Mとは、個別に稼働している機械同士が通信し合い、自律的に動くシステムです。それに対して、IoTは「モノのインターネット」と呼ばれ、モノ同士の通信に限定されず、オープンなインターネットに接続されることを指します。例えば、IoTが普及すると、冷蔵庫というモノとインターネットを組み合わせることで、スマート冷蔵庫のような製品が生まれ、足りない食材をオンラインで注文できたり、遠隔でスマホから冷蔵庫の中身をチェックするといったことも可能となっていくと考えられています。

IoTの影響が社会に広がろうとしているいま、関連するビジネスも多様になってきています。例えば、Apple Watchのようにセンサーを内蔵し、スマホと連動することで、心拍数や血圧を測り、データを蓄積できるウェアラブルデバイスの開発。そのほか、IoTデバイスを通して集めた情報を効率的に管理するためのトータルソリューションサービスの提供や、IoTプロダクトのデザイン設計を専門に行うなど、ビジネスチャンスは数多く存在します。

多様になってしまっているからこそ、何かIoT分野で起業しようと考えても、幅が広すぎて何から手を付ければいいかが難しくなってしまいます。そこで、神谷さんはIoT分野での企業を志す参加者に向け以下の様にアドバイスしました。

神谷「私が学生の頃、担当教授に言われた言葉が『針の穴から世界を見ろ』でした。つまり、自分のやれるところからやるということ。IoT分野は、幅が広すぎます。まずは、自分のできる範囲から段階的にステップを踏んでいくことをおすすめします。ソフトウェアエンジニアの経験がある方であれば、まずはソフトウェアの技術だけでやれるところまでやってみる。その上で、ハードウェアに取り組むといった手法も取れるでしょう」

どこから着手すべきかわかりにくくなってしまうIoT分野において、まずはできることからはじめてみることの必要性を説いた神谷さん。まずやってみるという考えは、「Tokyo IoT Monozukuri College 2017」の、プロトタイプを作成していくプログラムにも通じています。早い段階でプロトタイプを作ることは、さまざまな面でメリットがあると神谷さんは語ります

神谷「実際のモノがあるか否かで、周囲の反応は全く異なります。例えば、社内でIoTのプロジェクトを立ち上げるためには上司の説得が必要です。そこでプロトタイプがあれば、説得もしやすくなります。また、ある程度のプロトタイプが完成していないと、ベンチャーキャピタルからの出資を受けるのも難しくなるでしょう。絵に描いた餅ではないという事実を証明するのがプロトタイプなのです」

ハードウェアの場合、ソフトウェアと異なり、量産が必要となり、そのためにも莫大なコストを要します。製造したモノは在庫になってしまい、ソフトウェアとは異なるリスクも多く存在するため、プロトタイプを作成して開発するモノの確認をすることが重要になります。

日本はアメリカと比べて競合が少ない

イベントの後半は、技術メンターの神谷さん、ビジネスメンターの牧野さんの2人によるトークセッション。テーマの中から「日本で起業することのメリット」と「東京で起業することのメリット」の2つをピックアップして紹介していきます。

今回ビジネスメンターを務める牧野さんは、モノづくり起業推進協議会会長であり、ハードウェアスタートアップの量産化試作をサポートをする「Makers Boot Camp」株式会社Darma Tech Labsの代表も務めています。シリコンバレーを訪れた際に、日本のプレゼンスを世界に示すためには日本のモノづくりの技術を強みとして発信していく日本におけるモノづくりの必要性を感じて会社を立ち上げたという牧野さんは、「日本から世界的なモノづくり起業家を輩出したい」という思いのもと活動しています。

「日本で起業するメリット」というテーマについて、神谷さんは、競合が少ないことをメリットに挙げました。

神谷「日本は、市場規模が小さいものの、競合が少ない。海外で起業し、グローバルで戦おうとすると当然競合も多い。斬新なアイデアや、新規性が高い事業でも、追随するような競合がすぐに現れるような激しい争いが行われています。その点、日本には競合が少ないため、勝てる市場はまだまだ残っているはずです」

牧野さんは特徴ある日本の市場で、モノづくり分野で起業することは、ソフトウェア以上に海外展開のチャンスを生むと語ります。

牧野「海外は日本のモノづくりに興味を持っています。ゆえに日本で起業し海外に展開するという道は、モノづくりの分野では十分考えられます。実際、売り上げの半分を海外であげている日本のモノづくり企業も存在します。逆に、ITなどソフトウェアの分野だと、東京では注目される起業家も、海外で注目されるのは至難の業でしょう。これは日本のモノづくりで起業するメリットですね」

次に日本という要素をさらにブレイクダウンして「東京で起業するメリット」を探っていきます。このテーマに対し2人ともに共通する答えが、人の多さ。京都に本拠地を起く牧野さんも、自身の会社のインターン生が「周りに一緒に起業したいと思える仲間がいないから東京に行く」と言って、実際に東京へ行き、実際に仲間を見つけたエピソードを紹介。人が多いということは、仲間や投資してくれる人の見つけやすさ、営業先の多さなどにもつながるといいます。

牧野「東京にいることは、起業する上で有利な点の1つです。僕が本拠地を置く関西の起業家を見ても、成長したら東京に行く傾向にあります。営業候補先の多さ、VCが多いなどの資金調達のしやすさなど、人が多いことのメリットはいくつも存在します。東京にいるのであればそのメリットを十分に活かして、起業して欲しいと思います」

日本に明るい未来をもたらしてほしい

トークセッションの最後、2人から、これからのハードウェア分野で起業を目指す参加者に向けてメッセージが送られました。

神谷「モノづくりは、量産コストや、物流管理など、大変な面も多々あります。ただ日本においては、ハードウェア分野での起業は、追い風が吹いている。『ものづくり補助金』など、東京都が支援・補助してくれる制度も充実していますよね。使えるものはどんどん活用して、自分の目指す事業やプロダクトのために突き進んでくれる人が増えることを期待しています」

牧野「モノづくりでは既存のものを少しだけ異なる視点で見ることが大切です。お金をかけなくとも、機能的な部分を検証していくだけで、新たな価値を作ることはできます。前述の通り、海外では日本のモノづくりが注目を集めている。注目を集める数少ない分野だからこそ、これからの日本に明るい未来をもたらすような、事業を生み出して頂きたいと思います」

IoTビジネスの話にはじまり、起業を視野に入れた具体的な話が交わされた今回。多くのモノづくり起業家を見ている2人だからこそできる、ハードウェア分野での起業における具体的な話を伺うことができました。

Startup Hub Tokyoでは、起業を検討している方向けに知識やノウハウを提供するイベントを定期的に開催しています。起業を検討している方は、ぜひ足を運んでみてください。

※1 2016年の国内IoT市場規模は5兆270億円、2021年には11兆円規模に~IDC Japan調査(http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/1045172.html

ゲストプロフィール

神谷 雅史(株式会社 CAMI&Co.代表取締役)

慶應義塾大学環境情報学部 (SFC) 卒業後、同大学院修了 (國領二郎研究室)。

その後、日本ユニシスで「目玉おやじロボットPJ」を立上げ、ロボットやIoTに興味を持つ。アクセンチュア戦略部門を経て、IT、経営、ハードウエアの経験から、日本でも稀な「ハード/ソフト制作・AIoT開発・教育・コンサルティングまで行う」株式会社CAMI&Co.(キャミーアンドコー https://cami.jp)を設立。アメリカ西海岸に支社を持ち、現地の事情にも精通し、IoTアナリティクス企業の日本総代理店としてIoT系ビジネスを展開している。

IoT製作見積もりサイト『EstiMake』やIoTデザインに特化した『EstiMake-Design』、AI制作見積サービス『EstiMake-AI)』、IoT教育事業『IoT-School』などのサービスを展開。

KDDI∞ラボの社外アドバイザー・大阪市アクセラレーションプログラムメンターも務めている他、ビッグデータ解析やO2O、AR、VR、システム開発、展示会用の動きのある展示物開発、補助金コンサルティングサービスなどを行っている。

・株式会社CAMI&Co.  https://cami.jp

牧野成将(株式会社Darma Tech Labs代表取締役)

2005年フューチャーベンチャーキャピタル(株)入社。2009年から(財)京都高度技術研究所のインキュベーションマネージャーを兼務し起業支援を行う。2011年(株)サンブリッジのインキュベーション施設「GVH Osaka」の立ち上げやIT分野のシードステージ企業への投資活動を行う。2015年8月、ハードウェアスタートアップのための量産化試作サポートプログラムアクセラレーションプログラム「Makers Boot Camp」を提供する株式会社Darma Tech Labsを共同創業。2017年3月に試作支援をサポートするファンド「MBC Shisakuファンド」の設立を発表。

・株式会社Darma Tech Labs http://makersboot.camp/ja/

執筆:吉田祐基(inquire)

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