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【イベントレポート】楽しさと社会課題をつないでいく。音楽フェスプロデューサー 雨宮 優

起業を支援する「Startup Hub Tokyo」では、定期的に起業に役立つセミナーやイベントを開催しています。

「ABC TALKシリーズ」では、10代〜20代の起業家やスタートアップで働く方をゲストに迎えます。同じく10代〜20代の参加者が彼らの生き方や考え方を体感し、自分の人生を見つめ直すことのできるトークイベントです。

第一回目となった4月19日は、ワイヤレスヘッドフォンを使った音楽体験「サイレントフェス」などのプロデュースを手がけるOzone合同会社CEO 雨宮優さんをゲストにお招きし、様々なフェスを開催する背景にある想いや、挑戦し続けるための秘訣を伺いました。

フェスの楽しさと「SDGs」をつないでいく

雨宮さんはこれまでに「サイレントフェス」や「Mad Land Fest」といったイベントを主宰してきました。

「サイレントフェス」は、ワイヤレスヘッドホンを使って1つの音楽を共有する無音の音楽体験イベントです。最初はシェアハウスのリビングでイベントを開き、その後、公園や川、海、美術館、電車、銭湯など日本全国で開催。フジテレビ、NHK、日経新聞などのメディアに露出が徐々に増えていく中で、サイレントフェスのプロデュースを事業化してきました。

「Mad Land Fest」は、有機農法にこだわった畑を泥だらけにし、そこでDJの流すダンスミュージックに体を揺らすイベント。イベント内では、泥からできた泥だんごが通貨となり、商品やドリンクの購入に使えます。有機野菜を収穫してそのまま食べる取り組みも行った、オーガニックな畑での野外フェスです。

雨宮さんはフェスの楽しさと社会課題をつなぎ、SDGsが達成されたあとの世界をフェスとして表現していく「ソーシャルフェス®」というプロジェクトを続けてきました。フェスを主催してきた背景には「この時代の若者世代に則ったやり方でSDGsを広めていきたい」という想いがあります。

「サイレントフェス」は、SDGsの10番目に記載されている目標「人や国の不平等をなくそう」が達成されたのあとの世界を表現するイベントでした。

「『サイレントフェス』では、ヘッドホンをつけている人同士の奇妙な一体感と非言語コミュニケーションを促進することで、人種や宗教を越えたつながりを生み、人や国の不平等がなくなった後の世界を表現しています。フェスの開催のために、参加チケットを誰か他の人のためにストックしておける「Live stock」という仕組み作りました。この仕組は、経済の不平等の緩和と、このチケットが3回使われる毎に1枚分のチケット料金を開発途上国で売春被害に会う少女を救う活動に寄付しています」

一方、「Mad Land Fest」は、SDGsの12番目の目標である「つくる責任つかう責任」をみんなが考えるためのフェスだったそうです。

「日本では、フードロス(※1)が一般家庭でも問題となっています。この問題は、農作物の生産者への想像力の欠如から起きていると捉えています。Mad Land Festでは、野菜が生まれた場所に埋まりに行き、泥だらけになることで土と一体になるフェスです。その場で収穫した野菜のみで料理を作るキッチンを作り、フードロス、フードマイレージ(※2)の減少に取り組んでいます。生産と消費の距離をゼロにして、食の大切さを体験する仕掛けをしています」

さらに、雨宮さんは社会課題の伝え方についてこのように語ります。

「僕たちの世代には、『世界には苦しんでいる人がいて、社会課題が山積みになっている』という啓蒙は響きにくい。なぜなら、多くの課題はインターネットを通して知識としては共有されているものの、解決するための壁が大きすぎて越えられないと一人で悟ってしまうから。重要なのは、小さな一歩を踏み出すこと。ソーシャルフェスではフェスという小さな社会の中で、課題が解決された後の世界を疑似体験する。ソーシャルフェスは、エンタメを入り口に、誰もが小さな一歩を踏み出す仕組みをデザインすることなんです」

今できる理想をつらぬく

新しく何かにチャレンジしようとした時に、ついつい他の仕事に追われてしまい、着手するのが先延ばしになることがあります。雨宮さんは目の前に死を感じ続けることで、挑戦を続けてきたそうです。具体的には、人生の転換期において余命を設定し、やりたいことを全部やったり、誕生日に生前葬をしたりしていました。

「終わらない物語に始まりがないのは当たり前。ですが、死を身近に意識することで様々な物事に対する視点や感度が開いていき、本来は生活に持っていたはずの彩りを取り戻していくことができます。音を聞き流してしまうか、音を受け止め、楽しんで音楽とするかはその人次第なんです。僕は誰か敵をつくり変化を求めるのではなくて、自然な感受性でいられる環境をデザインして、自分自身はどちらかというと今できる理想を貫いていきたいなと思ってます」

誰もがフェスのオーガナイザーになれる時代に

雨宮さんは、次の世代に活動を継承していくことを意識する中で、活動の限界にも気づいていきました。

「自分がフェスやセミナー、ワークショップを通じてSDGsの啓蒙活動を続けても、そこまで多くの人に届けられないんです。SDGsを広げるには、参加者がユーザーからクリエーターになって同時多発的にアクションが起こっていかなくてはいけない」

「Ozoneでは大きなフェスのオーガナイザーをゲストに、フェスづくりのノウハウを共有するワークショップも開催しています。現代は挑戦するハードルが下がり、受け手からつくり手になる人が増えている。理想の未来を表現する方法の1つとして、フェスづくりが広がっていけば」と雨宮さんは語ります。

なぜ社会にフェスが必要なのかというと「フェス、複数人で音楽をその場で共有する体験は古くから、複雑な社会体系を持つ人類が共同体として柔軟な行動をしていくために必要なセレモニーでした。」と雨宮さんは語ります。

「近い未来、2020年代には人の平均寿命は100歳になり、働き方はコミュニティベースとなり、キャリアは蜘蛛の巣のような多角的に相互干渉するネットワークを前提としてデザインされるようになるでしょう。その未来では、人々には新たな火をつけるクリエイティブな能力や、スペキュラティブデザイン(※3)のような問いを生む能力が求められてきます。時代が大きく変わろうとしている今、小さな社会であるフェスづくりを通して、エデュテイメント(※4)的に理想の仮説検証をしていくことが必要なんです。志を同じくするコミュニティがDIY的に理想の小さな社会を形作っていくプロセスに、教育的にも高い価値があることを感じています」

「将来的には、一人ひとつのフェスをオーガナイズする時代が来るかもしれません」と雨宮さんは言葉を続けました。

「自分のアイデンティティ」と社会課題を結びつけて解決を目指してみる!

イベントの後半では、ワークショップが行われました。雨宮さんがフェスの楽しさとSDGsを結びつけていたように、参加者はワークショップを通じて、自分のやりたいことやアイデンティティが社会課題の解決にどうつながるのかを考えていきます。考えるだけではなく、自分のアイデンティティ、ビジョンを他の参加者と共有し、自分の中の納得度を高めながらビジョンの輪郭をはっきりさせていきました。

ワークショップの後、雨宮さんはインドの独立運動を率いたマハトマ・ガンディーの2つの言葉を引用し締めくくります。

「見たい世界にあなた自身がなりなさい」

「本当に善いことはカタツムリの速度で動く」

ガンディーの発言を引用した後、雨宮さんは講演を次のように締めくくりました。

「人は快感原則のもと、基本的に変化を拒絶する生き物です。なので、世の中が変化するスピードはとても遅いです。納得度の高いなビジョンを描き、そのビジョンを体現し続けることが重要です。ビジョンを描き、続けていくためには仲間や資金が必要になります。起業という選択は、ビジョンを実現するひとつの手段として有効なはず。泳ぎ方は溺れる内に分かってくるので、まずはStartup Hub Tokyoのような支援施設を通してチャレンジしてみてください」

Startup Hub Tokyoでは、起業を検討している方向けに知識やノウハウを提供するイベントを定期的に開催しています。起業を検討している方は、ぜひ足を運んでみてください。

※1 フードロス・・・まだ食べられるものが捨てられてしまうという問題
※2 フードマイレージ・・・食料の輸送量と輸送距離を定量的に把握することを目的とした指標ないし考え方
※3 スペキュラティブデザイン・・・「問題解決」よりも「問題提起」を重視する手法、デザインを、物事の可能性を“思索”〔speculate〕するための手段として用いる
※4 エデュテイメント・・・教育(エデュケーション)と娯楽(エンターテイメント)を合成した言葉。遊びながら勉強にもなる。

ゲストプロフィール

雨宮優

Ozone合同会社CEO。ソーシャルフェスデザイナー。ファシリテーター。DJ。

世界一静かな音楽フェス「サイレントフェス」プロデュース事業Sient itを開業後、川、海、オフィス、学校、画廊、道路、電車、銭湯など様々な場所で全国計50回以上のフェスを企画し、多数のメディアに特集される。その他にも畑で開催する泥フェス「Mad Land Fest」や量子力学をコンセプトにした「Quantum」などSDGsとフェスを結びつけた野外フェスをプロデュースし、エンターテイメントを通したソーシャルデザインを仕掛けていく。教育とエンターテイメントの領域を横断し大学やシンポジウムでも多数講演を行う。

Ozone合同会社 http://social-fes.com/
Silent it http://www.silent-it.com/

執筆:岡田弘太郎(inquire)

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