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【イベントレポート】とにかく身の丈に合わないことをやり続けてきたから今がある。MyDearest株式会社CEO 岸上 健人

起業を支援する「Startup Hub Tokyo」では、定期的に起業に役立つセミナーやイベントを開催しています。

「ABC TALKシリーズ」では、10代〜20代の起業家やスタートアップで働く方をゲストに迎え、同じく10代〜20代の参加者が彼らの生き方や考え方を体感し、自分の人生を見つめ直すトークイベントです。

第2回目となった5月22日のゲストは、「すべての人を主人公にする」というミッションのもと、オタク向けVRコンテンツの作成を行うMyDearest株式会社CEOの岸上健人さん。起業に至るまでの背景や、起業する上で大事にしていることについて伺いました。

VR技術があれば”すべての人を主人公”にできる

今回のイベントは、岸上さん自身の話、参加者からのQ&Aコーナー、そして後半は、参加者自らが自分のやりたいことを宣言するといった、3部構成でした。まずは、岸上さん自身の話からお伝えしていきます。

岸上さんが代表を務めるMyDearest株式会社では、「One million story One million life」というビジョンのもと、テクノロジー×エンターテイメントをテーマとしたVRコンテンツを作成しています。ビジョンには、VR上で100万もの物語、100万もの人生を体験することを可能にするといった思いが込められています。

「僕たちが取り組んでいるのはフルダイブエンターテイメント、つまり、没入型のエンターテイメントです。今までのエンターテイメントは、客観的な視点で、読む、見るといった行為が中心でした。VRが登場したことによって、作品の世界観をバーチャル空間で擬似体験できるものへと変わりつつあります。想像をめぐらさないと共感できなかった物語も、VR技術があれば、家に居ながら登場人物の視点でその物語に没入できると考えています」

MyDearestではFullDive novel(フルダイブノベル)という、本の世界を自身が体験できる完全没入型のVRコンテンツを開発しています。本の中の世界を、読むだけでなく、体験することができれば、同社のビジョンにもある通り、いくつものVRコンテンツを通じて、何通りもの物語や人生を体験できることになります。

VRで起業しようと思った2つの理由

岸上さんが、VRの領域で起業しようと思った理由は、2つありました。

1つ目は、VRヘッドセット「Oculus Rift」の登場。当時、ソードアート・オンラインというVRをテーマにしたアニメを見て、VRの世界観に触れた岸上さん。そのすぐ後に、Oculus社の創業者パーマー・ラッキー氏がクラウドファンディングで過去最高額の調達に成功したニュースを知ります。

「Oculus Riftの話を聞いたとき、未来だと思っていたアニメの世界が現実になろうとしているのかと驚きました。その後、2013年にはじめてOculus Riftを体験したのですが、着けた瞬間『これが未来だ!』と思ったんです。そこから急激にVRにのめり込んでいきました」

大学時代、中学生の頃からVRを研究していたという友達がルームメイトだったこともあり、VRによって実現される未来について夜な夜な語りあったという岸上さん。友達と語り合った経験も、VR熱を加速させていきました。

2つ目が、ソフトバンクグループ創業者・孫正義氏の講演を聞いたこと。大学生だった岸上さんは、就活生向けに行われた孫氏の講演を聞いたことで、起業を志すようになります。

「孫さんの講演を聞いたとき、世界を変える大きな事を成したいという熱い話に感動して、思わず泣いてしまったんです。彼のもとで学びたいと思い、ほぼソフトバンク1社に絞って就活し、内定をもらいました。就職した後は、孫正義の後継者育成を目的としたソフトバンクアカデミアにも入塾。ソフトバンクアカデミアでは周りが起業家ばかりなので、起業したいという思いはますます強くなりましたね」

VRヘッドセット「Oculus Rift」との出会い、孫正義氏の講演をきっかけに、岸上さんはVRという分野での起業を志すことになります。

とにかく身の丈に合わないことをやり続けてきた

岸上さんが、起業という道を選んだ背景には、小学校時代の原体験がありました。

もともと、内向的な性格で、スポーツや勉強ができないことを強いコンプレックスに感じていたという岸上さん。さらに、親との不仲によるストレスも重なり、かなり辛い時期があったそう。そんな彼を救ってくれたのが、エンターテイメントという世界でした。

「自分へのコンプレックスや、親の不仲で、一時期は死のうと考えたこともありました。ただ、その時期たまたま見ていた『フルーツバスケット』というアニメの登場人物のセリフに救われたんです。そのキャラクターが言ったのが『誰かに好きだって言ってもらえてはじめて自分を好きになれると思うんだ。誰かに受けいれてもらえてはじめて自分を少し許せそうな…好きになれそうな気がしてくると思うんだ』というセリフでした。このセリフを聞いたとき、自分のことは自分では好きになれないんだから、どうしようもできないと思って。今までのことが吹っ切れて自分のことを許してもいいかなって思ったんです。そこからは、自分ではなく外に目を向けるようになりましたね」

自分を許し、周りに目を向けられるようになった岸上さん。そこからは、いかに自分のことを周りに認めてもらうかに力を注ぎ始めます。

「周りに認めてもらうために『変わりたい』と強く思ったんです。苦手だと思っていたスポーツも、とにかく練習してみました。当たり前の話ですが、ちゃんと練習すればできるようになるんです。いままでの自分はやりもしないで逃げていただけだったんだと思うと共に、周りの自分を見る目も変わっていくのを感じました。このとき『自分は変われるんだ』と実感したんです」

その後は、岸上さんは甲子園を目指すメンバーが集う中学公式野球チームへ所属したり、落ちこぼれの生徒が東大を目指す漫画に感化されて東大を目指して勉強に取り組んだりと、周りから見ると無謀とも思える挑戦を続けていきました。身の丈に合わないことをやり続けることが、自身の大きな成長につながったといいます。

「変わりたいという欲求から、とにかく身の丈に合わないことをやり続けてきました。確かに、身の丈に合わない環境に飛び込むと、周りからバカにされたり、コンプレックスを抱くこともあります。でもその居心地の悪さは、自分が変わろうとしている証。身の丈に合わない環境に身を置くことが自分を変えることにつながっていますし、だからこそいまの自分はあると思っています」

これまでの人生を振り返って、岸上さんは起業する上で大事なことは「傷つく勇気」「コンプレックス」「今すぐやればいいじゃん」の3つだと語ります。

「最初はバカにされるかもしれないけれど、それでも身の丈に合わない環境に飛び込む『傷つく勇気』。自分の 『コンプレックス』を受け入れて、それをバネに努力すること。できるかできないかは置いておいて『今すぐやればいいじゃん』という気持ちでまずはやってみること。この3つが大事です」

変わるしかない状況にいたから、変わることができた

岸上さんの話に続き、参加者からのQ&Aコーナーへと移ります。そのなかの1人の参加者が「変わろうと思っても変われないのが人間だと思います。変わるためにはどうしたらいいのでしょうか?」という質問を投げかけました。

それに対し岸上さんは、以下の様に答えます。

「選択の余地がある環境では人は変われません。僕は小学生の頃から、自身へのコンプレックスや、親の不仲、また大学時代は自分で学費のやりくりをしなければいけない極貧生活など、今にして思えば過酷な人生を歩んできました。僕の場合、自分が変わらないと環境に押しつぶされて人生が終わってしまう。変わるしかない状況にいたから僕は運良く変われたと思っています」

こう回答した後、おもむろに一枚のスライドを見せた岸上さん。そこには、徒然草の一節を翻訳したメッセージが書かれていました。

「とにかく下手くそなうちは、誰にも見せたくない。こっそり練習して、ある程度見られるようになってから、披露するのがかっこいいと言う人がいるが、そういうことを言っている人が最終的に手本になった例は1つもない」

この一節を読みながら、岸上さんはこう語ります。

「徒然草のなかで言われていることは、今の時代と全く変わりません。変わりたいと思っても、自分のなかで完結している内は変われません。だからこそ、周りにすごい人がいるような環境に飛び込んだほうが、人は無理やりにでも変われるんです」

自分の「やりたい」を簡潔に述べることが、起業家には求められる

イベントの後半は、参加者がやりたいことを宣言していきました。参加者は、まだ「想い」だけの状態から、すでにプロトタイプができており、実際に動き出している人まで様々。参加者のなかには、中学生も交じっており、若い時期から課題意識をもってやりたいことを宣言する姿に、会場からは感嘆の声も上がっていました。

最後の1人が宣言し終え、岸上さんが統括するかたちで、以下のように述べました。

「時間に制限のないなかで自分のやりたいことを話そうと思えば、いくらでもしゃべれてしまう。ただ短い時間のなかで、やりたいことを表現する力こそが大事です。起業においては、特に投資家へ訴えかけるときに重要となります。『何が魅力か』と聞かれたときに一言で自分のやりたいことの魅力を伝える力が起業家には求められます」

岸上さんは、イベントの締めくくりに、このようなコメントをしました。

「起業する上で、自分をさらけ出すことが大事な場面は多々あります。たとえば、事業のフェーズが進むほど仲間が大事になっていきます。いい仲間が集まれば集まるほど、うまくいく確率は高まっていく。いい仲間を集めるためには、自分をさらけ出すことが求められます。自己開示によって人との関係性を構築できるというのは、心理学的にも言われていること。起業を考えるのであれば、自身が抱えるコンプレックスも含め人に伝えられる能力は、大きな力になると思います」

飾らない言葉で、自身の経験を赤裸々に話す岸上さんの姿からも、「傷つく勇気」「コンプレックス」「今すぐやればいいじゃん」という3つを体現しながら、起業家人生を歩んでいることが伝わってきました。

Startup Hub Tokyoでは、起業を検討している方向けに知識やノウハウを提供するイベントを定期的に開催しています。起業を検討している方は、ぜひ足を運んでみてください。

ゲストプロフィール

岸上 健人(きしがみけんと)

VRスタートアップMyDearest株式会社 代表取締役CEO。1991年12月31日生まれ。日本三大田舎である徳島県で18歳まで育つ。超弩級オタク。好きなジャンルはラブコメ。週刊少年ジャンプではなく、別冊マーガレットを購読していることが自分の中で有名。家賃3000円の男子寮で4年間、極貧の大学生活を送る。やらない後悔ではなく、やって後悔すること多数の人生(でも楽しい)。年上萌えであるが、年上と付き合ったことはない。

2015年4月1日~2016年3月30日:ソフトバンク株式会社在籍
2015年4月~現在:SoftBank Academia在籍
2016年4月:MyDearest株式会社創業
2016年5月:サムライインキュベートから投資
2016年6月:カリスマライトノベル編集者、三木一馬氏に弟子入り
2016年12月:Infinity Ventures Summit Launch Padファイナリスト(変人枠)
2017年3月:第2回日本アントレプレナー大賞エンタメ部門を受賞

執筆:吉田祐基(inquire)

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