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【イベントレポート】街と街が、国を超えて自律的につながる景色が見たい−文化起業家 リ・パブリック内田友紀

起業を支援する「Startup Hub Tokyo」では、定期的に起業に役立つセミナーやイベントを開催しています。2017年3月29日は「クリエイティブな事業の動かし方 ー文化起業家#03ー」を開催。

本イベントは、NPO法人インビシブルが『文化起業家』というテーマにあったゲストを毎回選出。インビジブルのマネージングディレクターである林曉甫さんがモデレーターをつとめ、ゲストの方がたどってきた経験や、現在の活動、そして自身が起業を通して見たい景色を伺うイベントです。

第1回目では、スープストックトーキョーを運営する株式会社スマイルズ代表取締役社長・遠山正道さんがゲスト、第2回目は、株式会社ディヴィデュアル共同創業取締役で、NPOコモンスフィアの理事でもあるドミニク・チェンさんがゲストでした。

第3回目である今回は、株式会社リ・パブリック共同代表で都市デザイナーの内田友紀さんをゲストに、リ・パブリックの活動から、内田さん自身のこれまでと現在の活動、そして、起業を通して実現したいことなどを伺いました。

その人が取り組んだ後に、新しい文化を生む「文化起業家」

「いまは、社会や哲学、思想といったさまざまな言葉が横につながってきている時代です。そのなかで事業を通して生み出すことが求められている『価値』は、経済活動だけではなく、『どのような文化を残していくのか』を考えることも大事だと考えています。その人が取り組んだ後に新しい文化、いままでとは違う体験が生まれる起業家を『文化起業家』と呼び、この企画のサブタイトルに設定しました」

と、モデレーターの林さんは今回の企画について語ります。会場に集まったのは起業を考えている人が約4〜5割、都市や地域に興味がある方が約2割、文化起業家に興味がある人が約2割と、幅広く興味関心を持った人が集まりました。

多様なステークホルダーをつなぎイノベーションを生む「リ・パブリック」

内田さんが所属するリ・パブリックは、研究のみならず実践にも関わる「シンク・ドゥ・タンク」、イノベーションラボとも呼ばれます。そのような形態の組織には、イギリスの「Nesta(ネスタ)」やデンマークの「Mind Lab(マインドラボ)」などがあります。言葉だけではつかみづらい同社の事業領域について、内田さんはまず、創業の経緯から語ります。

「リ・パブリックは、4年前に立ち上がった企業です。企業、市民、大学や行政などをセクターを超えてつなぎイノベーションが起きやすい環境をデザインすることをミッションとしています。主に、『組織戦略』『科学技術と社会イノベーション』『都市デザイン』の3つの領域で活動しています。創業メンバーは3人。それぞれ起業に至った経緯は異なるのですが、きっかけの一つに、『3.11』を契機としてはっきりと突きつけられた、『政府や、企業、地域それぞれのみでは、各地で起きる課題は解決できない』という状況がありました」

同社が実際に業務として行っている3つの領域について、具体的な事例とともに紹介いただきました。まず「組織内のイノベーター研究」から。

「100年以上続くような成熟企業のなかで連続してイノベーションをおこす人材とその環境について研究を行いました。成熟企業と共に情報や事例のリサーチ、現場での行動観察を行い、イノベーションを企業にインストールする方法やセオリーを探し、実装を試みています。」

2つ目は、「科学技術と社会イノベーション」について。こちらは企業との共同プロジェクトとアカデミックの分野、2つの事例が紹介されました。 

「主に企業の研究開発やデザイン戦略部門と共に、パートナー自身が社会を洞察し、組織戦略をつくる視野を獲得するために伴走する役割を担っています。この先数十年の変化や未来をともに洞察し、組織が担うべき役割をふまえた戦略策定までを見据えます。

アカデミックの分野では、ロボット研究者やトップエンジニアとともに10年後の技術インフラを開発するプロジェクトを行っています。こちらでもリ・パブリックは社会変化の洞察や、変化させる力を持つ人を育て、技術をどのように活かしていくかを考える立場で関わっています」

そして、3つ目の「都市デザイン」。こちらは都市デザイナーとして活動する内田さんも多く担当する領域、地域とともに開発しているプロジェクトが事例として紹介されました。

「都市デザインの分野では、福岡市、広島県、福井市の3つの都市で行政や経済団体をパートナーとして、地域の固有性や可能性を考えながら一緒にプロジェクトを作っています。たとえば、福岡では、市民を主役にしながら社会課題を解決する事業創造プログラム『INNOVATION STUDIO FUKUOKA』の立ち上げ。福井では、広義のデザインの力を生かし新たなプロジェクト・事業を生み出す実践の場と銘打った『XSCHOOL』という教室を立ち上げました」

「INNOVATION STUDIO FUKUOKA」は、地元福岡市民を主役として、その地に暮らす人が地域の未来を作り、行政サービスに取って代わるような社会資本が作れないかと試行したプログラム。

「XSCHOOL」は、多様な分野のデザインに精通した講師を揃え、日本各地から24人の受講生を募集。3人1組のグループで取り組むプログラムを実施しました。地域の歴史・文化を読み解き、パートナー企業を通して地域産業の課題や可能性を探索し、デザイナーである受講生自身が包括的に、プロジェクトの立ち上げからデリバリー(実現)までオーナーシップをもって取り組む、実践型のプログラムです。中にはすでにクラウドファンディングを開始したグループ、商品化に向けてパートナー企業と具体的に内容を詰めているグループもあるといいます。

「XSCHOOL」では、参加者それぞれが当事者意識を持って、周囲の人や企業、地域などを巻き込みプロジェクトを動かしていました。地域の人や企業を巻き込みイノベーションを生み出していく姿は、内田さんが描く都市像には大切な要素だといいます。

人が生きる器そのものである「地域」や「都市」の魅力

リ・パブリックの紹介に続いて、話は内田さん自身の話に移ります。現在は都市デザイナーとして活動する内田さんですが、なぜ現在の活動に至ったのか。そして彼女自身が見たい景色とはどのようなものなのか。起業に至った経緯を語っていただきました。

内田さんが、はじめて都市というものを意識し、興味を引かれた原体験は、高校生のころにみたいくつもの街と、都市を構成する多様な要素にあったといいます。

「わたしは高校生の頃、1年ほど学校休んで旅に出た時期がありました。知り合いを訪ねつつ、国内外さまざまな街をぶらぶらとしていました。その旅のなかで多様な街の姿や街を構成する要素、気候から人にいたるまでの違いにとても感動したんです。わたしは福井出身なのですが、福井はかつて多くの災害が重なり、当時の最先端の都市計画として作られた碁盤の目上の街で、正直つまらない街だと思っていました。その街を当たり前と思って暮らしてきたわたしにとって、旅先で見た景色は、強烈に印象に残り、その後の自分に影響を与えました」

いままで過ごした福井とは大きく異なる都市の姿を見て影響を受けた内田さんは、大学で建築・都市計画を専攻。徐々に探索を続けるなかで、都市というキャンパスに描こうとし続けている「見たい景色」をみつけたといいます。

「わたしが見たいのは『ローカルとローカルが、国を超えて自律的につながる景色』です。一つの例えでもあるのですが、国を超えて人々が共にいるということは、異種のものが共存するということ。 人は、異種のものと出会うことで、自身の概念や偏見が壊れ、今までと全く異なる発想ができるようになります。バイアスが壊れ、夢や可能性のイメージが広がったときに、人はより創造的になれるのだと思うのです。そのようなきっかけが、まちの中で日常的に起こり、多くの人の創造性や偏愛の表現からまちが作られ続ける状況が、私がずっと見たいと考えている景色です」

内田さんは、卒業後はリクルートへ就職。当時は、働きながら土日に活動を行ったり、会社のビジネスを通して何かできないかと模索したりしたといいます。社内外でさまざまな可能性を模索したものの、自分の人生の本流で取り組むためには、もう一度、その道に行くしかないと考え、退職。イタリアの大学院に進学する道を選びました。

「イタリアは、歴史があり、市民の郷土愛も強い。産業的には、小さな都市に根付いた地場産業が世界と対等にビジネスを行い、価値を生み出しています。文化芸術が尊重され、あらゆる面でデザイン性が高い。しかも経済的に成長期にあるわけではなく、今後日本も直面していくであろう課題を既に抱える、課題先進国でもあります。日本の都市にはない価値が根付いている場所で、人はどう生きているのかを見たい。そう思いました」

大学院に入った内田さんはイタリアだけで無く、チリやブラジル、アフリカ、ベトナムなど、各国で行われるプロジェクトに数ヶ月単位で次々と関わっていきました。各地で、建築デザインや、コミュニケーションデザイン、メディアデザインなどさまざまなことを実践し、都市や地域で起きていることや複数のアプローチを学んでいったといいます。

「一連のプロジェクトを通して学んだのが、その地に関わる人が創造性を解放して、自ら生きる場を構築していくことこそが、都市を持続的につくるヒントだということ。専門家として関わることをイメージしてきた私は、市民自身がオーナーシップを持ち、自らの生き方や意思を見つけてゆき、それを街で実践してゆくときこそ、自立した街が生まれるのではないかと気づかされました。この学びを、都市を舞台に実践したいと考え、帰国。リ・パブリックの創業に携わり、いまに至ります」

原体験から現在に至るまで、一貫して「都市」というテーマで活動してきた内田さん。「ローカルとローカルが、国を超えて自立的につながる景色」のために、世界を飛び回りながら活動を続けられる原動力はどこにあるのか。内田さんは以下のように語ります。

「『都市』は、生きとし生ける人の集合体です。文化から経済、社会、自然環境まで、あらゆる要素が内包され、私たちが生かされている。その営みが私にとって面白くてたまらないのです。その複雑性に私は魅せられています。」

Q&A

イベント後半では、会場内でいくつかのグループに分かれ、自身が起業を通して見たい景色についてであったり、前半で話された内田さんの話に対するディスカッションを実施。その後、ディスカッション内で出た疑問点も含めゲストへのQ&Aタイムに移りました。ここではいくつかのQAをご紹介します。

Q:会社でマーケティングの仕事をしているのですが、「XSCHOOL」で語られていた「広義のデザイン」というものに興味があります。人を巻き込んでデザインを進めていくとはどういうことか、もう少し詳しく教えてください。

内田さん:現在のデザイン教育の現場では、フィジカルなデザインをするだけでなく、未来の人々の生活にどのような影響を与えるのか、社会の定義はどのように変化するかといった、広義な問いが行われています。建築も同様で、その街の歴史や風土などを紐解き、これからのまちや社会の変化をどう生み出すかを考え、最終的なアウトプットとして建築を生み出しています。

こういった価値の再編集、再定義を行うことから、アウトプットして届けるところまでの全体をデザインと定義することが、「広義なデザイン」の意味です。

Q:「イノベーションが起こる環境を構築する」という会社のミッションがありましたが、プロジェクトのゴールはどのように設定するのでしょうか。プロダクトのようなアウトプットがあるものはわかりやすいですが、自治体の場合なども教えてください。

内田さん:ゴールの設定は、クライアントや案件の特性によって全く異なる、ケースバイケースです。たとえば、研究者や組織内の人々が、社会を広く洞察する視野を獲得し、自らの研究と接続して発想できることを最終目標としつつ、都度短期の成果を設定する場合もあります。

逆に、あえてゴールを決めないプロジェクトもあります。XSCHOOLの場合は、ゴールを明示しないことがよい結果につながりました。提携していた企業とも受発注の関係ではなく、お互いにプロジェクトを作る当事者意識を持ってもらうことで多様なプロジェクトが生まれました。これも、立場によってゴールを設定する・あえて言わないなど、アウトプットの形もそのプロジェクトごとに適切にデザインしていく必要があると思います。

―――

イノベーションの必要性や地域の課題解決が叫ばれるいま、内田さんをはじめ、リ・パブリックの活躍が必要となる場面はますます増えてくるでしょう。明確な目標に向かい走り続ける内田さんの後には、文化とも呼べる価値が残り続けていくはず。

Startup Hub Tokyoでは、起業を検討している方向けに知識やノウハウを提供するイベントを定期的に開催しています。起業を検討している方は、ぜひ足を運んでみてください。

・ゲスト

内田友紀 /株式会社リ・パブリック共同代表 / 都市デザイナー

早稲田大学理工学部建築学科卒業。株式会社リクルート勤務後、2012年イタリア・フェラーラ大学大学院にてSustainable City Designを専攻。持続的な都市を包括的にデザインする人材育成を標榜するプログラムにて、イタリア・ブラジル・チリ・ ベトナムなどで地域計画プロジェクトに携わる。同年ブラジル州政府にインターンシップ参加し、国連サステナブルシティ・アライアンス事業に従事。また、2012年より参加型ガイドブック「福井人」制作プロジェクトに発起人として参画。2013年よりThink/Do tankのRe:public創業に加わる。福岡市のグローバルスタートアップ国家戦略特区・中核プログラムの開発・運営や、中規模都市・福井市を起点とした“地域を超えた人の流れと仕事をつくる” make.f プロジェクト、その中でのデザインの教室 XSCHOOLなどを手がける。また、科学技術者らと共に未来の社会変化を踏まえた技術開発プロジェクトに携わるなど、地域/企業/大学などとともに、セクターを超えたイノベーションエコシステムの構築に従事する。

・モデレータ

林曉甫 / NPO法人インビジブル マネージング・ディレクター

立命館アジア太平洋大学アジア太平洋マネジメント学部卒業。卒業後、NPO法人BEPPU PROJECTにて公共空間や商業施設などを利用したアートプロジェクトの企画運営を行い、文化芸術を通じた地域活性化や観光振興に携わる。2013年に独立し、2015年にNPO inVisibleを設立し現職。別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界2012」事務局長(2012, 別府)、鳥取藝住祭総合ディレクター(2014,2015, 鳥取)六本木アートナイトプログラムディレクター(2014〜 東京), 女子美術大学非常勤講師(2016)

執筆:小山和之(inquire)

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