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【イベントレポート】服で日常に劇場を作り出すために起業したー文化起業家 シアタープロダクツ創業メンバー 金森香

起業を支援する「Startup Hub Tokyo」では、定期的に起業に役立つセミナーやイベントを開催しています。2017年4月28日には『クリエイティブな事業の動かし方 ー文化起業家#04ー』を開催。

今回のゲストは、2001年にデザイナーの武内昭らとファッションブランド『シアタープロダクツ』を設立し、NPO法人『ドリフターズ・インターナショナル』の理事も務める金森香さん。モデレーターは「文化起業家」シリーズの企画を担当されているNPO法人インビジブル マネージング・ディレクターの林曉甫さんが務めました。

当日は、金森さんから現在の活動の背景や会社としての取り組みについて伺いました。

幼少期の原体験が、創業したきっかけに

「ファッションがあれば世界は劇場になる」というコンセプトのもと、2001年に設立されたファッションブランド「シアタープロダクツ」。このコンセプトが生まれた背景には、金森さんの幼少期の体験が、大きく影響しているといいます。

「両親が劇団で働いていた関係で、幼い頃から劇場は私にとって身近な場所でした。あるとき、いつもかわいがってくれていた女優さんが人魚姫の舞台で主役を演じることになったんです」

その舞台が原体験だった、と語る金森さん。いつも金森さんの身近にいた人が、物語の主役を演じることでどれほど綺麗になるのか。その姿にワクワクしながら、人魚姫を観に行ったそうです。その女優さんがカーテンコールから出てきた姿は、非常に印象的だったと語ります。

「遠くにいる主役の人魚姫が近づいてくると、そこには普段間近で見ていたお姉さんがいて、私に向かってこっそりと手を振ってくれたりする。その瞬間、物語のなかの人物から、身近な人が垣間見えることにとても感動したんです。お姉さんは人間なのか、人形姫なのか、日常と物語の区別が曖昧になる。そのまばゆさがすごく印象に残りました」

この劇場での不思議な感覚がなんなのか、しばらくわからなかったという金森さん。年月を重ねるにつれて、少しずつ何に惹かれるのかがわかっていきました。

「この感覚はなんだろうと考えたときに、最初はただ演劇が好きなだけだと思っていたんです。ただ年を重ねるにつれ、演劇が好きなのではなく、虚構の物語が、現実を侵食する瞬間が好きなのだと、気づき始めました。それからは、劇場という専用の建物や、戯曲のセリフがなくとも、”いまそこに人がいる”ということだけで生まれる、劇場のような瞬間を作りたい思うようになりました。」

いつか自分の手でやりたいことを実現させたいー最初の会社で仕事の基本を学ぶ

空間や戯曲ありきではなく、身体から始まる劇場のような瞬間を作りたいと考えた金森さんは、舞台美術について勉強するために、イギリスへ留学するも、より広く身体と環境について俯瞰できる現代美術を専攻。そして帰国後は、日本の伝統的な請負広告業「ちんどん屋」にこそ、街路に劇場のような瞬間が生まれてくる可能性があると感じ、その瞬間を体感すべく、実際にちんどん屋をやり始めます。

金森さんにとっては、それが初めての起業体験でした。しかし、ちんどん屋自体は長く続かず、すぐに資金が底をついてしまいます。このとき、やりたいことで起業することの大変さを実感した金森さんは、出版社リトルモアに入社。そこで仕事の基本を学びはじめました。

「当たり前ですが、やりたいことをやるためにはある程度の段取りであったり、お金の計算であったり、組織の在り方であったり、ビジネスの基本を学ぶことが必要だと思いました。リトルモアでは、電話の取り方や、お茶の組み方など、本当に基本的なことから、税金の話や、PRの仕方まで、いろいろなことを学びました。やりたいことを実現するためにも、基本的なビジネスの段取りを踏む必要があるんですよね」

リトルモアは小さな会社だったからこそ、働いている人全員の動きを見ることで、仕事や組織の基本の大切さを学んだそうです。表現活動と、それを実現させる枠組みのあり方は、とても密接な関係がある、そのとき感じたといいます。

やりたいことをやりはじめる手段として起業を選ぶ

その後、金森さんはリトルモアの仕事をしていくなかで、ギャラリーの運営に携わる機会を得ます。ギャラリーの運営を通じて、後に一緒に起業することとなる、デザイナーの武内昭さんらと出会います。新しい展覧会を企画しようと、金森さんがアプローチしたのがはじまりでした。

あるとき金森さんは「武内くん、次はどんな作品を作りたいの?」と尋ねました。それに対し、武内さんからの回答は「会社を作りたい!」だったそうです。「会社というものを展示したい」という武内さんの言葉に触発された金森さんは、面白いと直感し、一緒に起業することを決心します。

「当時はちょうど、リトルモアで働くなかで、会社組織というものがいかにクリエイティブかということに感動していた時期でした。私は戯曲や建物がなくても、人がいるだけで立ち現れる劇場を作りたい。デザイナーの武内くんたちは時間と空間をつくりだす、劇場的な存在としての服を作りたい。劇場(シアター)と服(プロダクツ)を作りたいということから、社名も自ずと『シアタープロダクツ』に決まりました」

会社を作るにあたって金森さんは当面の運転資金を、当時のリトルモアの社長から借ります。生まれてはじめての大きな借金だったと言いますが、借りたお金を返すために会社を成長させることを目指すのも、1つのモチベーションにつながったといいます。

「最初の数年は会社以外にも、翻訳の仕事をしたり、リトルモアでお手伝いしたりと、2足、3足のわらじ履いていました。ただ数年で事業が回るようになり、そこからは、シアタープロダクツの事業に専念できるようになりました」

そこから15年以上、シアタープロダクツを運営し続ける金森さん。現在は、表参道、伊勢丹、大阪阪急、名古屋のタカシマヤなど、幅広く展開しており、従業員も30人ほどの規模まで、成長させてきました。

自分たちが作ったものが、あらゆる日常の中に入っていく

上の写真は、ブランドのファーストコレクションです。繊維同士がからまって一枚のシート状になっているものから、服をはがして手にいれる、というものでした。

「普段、洋服は1着いくらとしてお金を払いますが、ここでは、はがすという行為を購入すると服がついてくる、と考えることもできます。シアタープロダクツのブランドコンセプトを体現している作品だと思うので、いまでもこうしてお話することが多いですが、このようにアイデアや、言い方次第で、何にお金を払っているのかが変わってきます」

服を手にいれるまでの時間に、さまざまな体験が内包され、ファッションや詩情が日常の中に浸透していく。これも日常の中に劇場を作りたいという、金森さんの思いにもつながっていきます。

シアタープロダクツの看板商品として知られるロゴのトートバックも、売って終わりではなく、その人がどう活用するのか、想像することに、素晴らしさがあるといいます。

「私たちが生み出しつくってきたものが、タンスの中だったり、洗濯機の中だったり、あらゆる日常の中に入りこんでいくことが素晴らしいと思っています。私たちの手から離れたモノも、その所有者の生活の中で、何通りもの役割を果たしているわけですから」

服というものすべてが劇場を作り出せる

では、金森さんにとっては劇場の魅力とは一体なんなのでしょうか。

「ファッションを劇場と捉える人は多くないかもしれませんが、シアタープロダクツはもちろん、服というものすべてが劇場を作り出せると思っています」

金森さんの視点からは、例えば、祭り用の衣装を着ることで、日常空間の中に祝祭が生まれるというのもファッションが劇場を作り出す1つの例になります。着る服や着てる人が込めるメッセージ次第で、周囲の世界は変わってくる。

「人がそこにいるだけで、劇場のような瞬間が生まれる。その瞬間をどうやって作ることができるか、どうやったら現れるのかをずっと考えてきました。虚構をいかに自然な方法で、日常に持ち込むか。そのための手段に、ファッションがフィットしたんです。服を着た瞬間に現れる、その人の周りの独特な空間が、小さい頃に観た人魚姫のカーテンコールの感覚と似ている。デザイナーたちは、平面から立体を作りだし、そこに時間や空間がうまれる、という、また別な劇場的な魅力をおしえてくれました。シアタープロダクツというブランドは、創業者それぞれの思いが込められることでうまれたのだと思います。」

表現活動とお金を稼ぐことのバランスをどうとるか

イベントの後半、参加者から「表現と、お金を稼ぐというのは、相反するものだと思いますが、その辺のもがきというか、どうやってバランスを取っているのですか?」という質問が挙がりました。それに対し金森さんは、バランスを取ることは難しいと語りながらも、両方があるからこそ会社は成り立つといいます。

「私は、どちらかというとデザイナーが表現したものを、翻訳して伝える役割なので、その葛藤はデザイナーこそ抱えているのかなと思います。彼らは、『誰になんと言われようとこれを作りたい』という欲求と、会社としてはこれを作らないといけないという義務感の葛藤の中で、モノを作っている。確かに、バランスをとるのは難しいですが、両方があるからこそ会社は成り立つと思っています。どちらかに偏ってしまうと、経営が成り立たなかったり、会社の想いが適切にお客さんに伝わらなかったりと、会社を存続させていくこと自体、難しくなると思います」

最後に、モデレーターを務めたインビジブルの林さんから、「なにが見たくて事業をされていますか?」と聞かれた、金森さん。それに対し彼女は、こう答えました。

「子供の頃から抱いてきたことですが、私は日常の中に劇場を作りたいんです。これまでも、これからもそのことしか考えられません。専用の建物や、セリフがなくとも、誰の日常にも劇場は起こり得る。ただ、劇場を作る手段は、服に限りません。あらゆる方法を用いて劇場を作っていきたいと思います」

・ゲスト

金森香(かなもりかお) / 『シアタープロダクツ』 創業メンバーNPO法人『ドリフターズ・インターナショナル』 理事

「セントラル セント マーチンズ カレッジ オブ アート アンド デザインの批評芸術学科を卒業後、チンドン屋をして出版社リトルモアに勤務。2001年にデザイナーの武内昭らと『シアタープロダクツ』を設立。広報ほかコミュニケーション企画やマネジメント業務を担当。2010年にはNPO法人『ドリフターズ・インターナショナル』設立。スクール事業や地域活性企画などに携わる。また2012年、包装材料問屋シモジマの新業態『ラップル』のオープンに際し、クリエイティブディレクターを担当。2015年には「ファッションは更新できるのか?会議」(フィルムアート社刊)や、「ラップルさんのアイデアパーティ」(リトルモア刊)などの出版企画も手がける。

・モデレータ

林曉甫 / NPO法人インビジブル マネージング・ディレクター

立命館アジア太平洋大学アジア太平洋マネジメント学部卒業。卒業後、NPO法人BEPPU PROJECTにて公共空間や商業施設などを利用したアートプロジェクトの企画運営を行い、文化芸術を通じた地域活性化や観光振興に携わる。2013年に独立し、2015年にNPO inVisibleを設立し現職。別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界2012」事務局長(2012, 別府)、鳥取藝住祭総合ディレクター(2014,2015, 鳥取)六本木アートナイトプログラムディレクター(2014〜 東京)、女子美術大学非常勤講師(2016)

執筆:吉田祐基(inquire)

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