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【イベントレポート】障害者や健常者という枠組みのない未来が見たい-文化起業家・遠藤謙

起業を支援する「Startup Hub Tokyo」では、定期的に起業に役立つセミナーやイベントを開催しています。5月29日(月)は「クリエイティブな事業の動かし方 ー文化起業家#05ー」を行いました。

このイベントでは、NPO法人インビシブルが『文化起業家』というテーマにあったゲストを毎回選出。「事業を通じ新たな価値を創出すると同時に、文化を作り出していく起業家」をゲストにお呼びして、事業の内容や事業を通じて実現したい未来についてお聞きしています。

第5回は、株式会社Xiborg代表取締役の遠藤 謙さんが登壇しました。NPO法人インビジブルマネージング・ディレクター・林 曉甫さんがモデレートを行い、トークが展開されました。

世の中に身体障害はない、あるのは技術の障害

日本を代表する義足エンジニアの一人、遠藤さん。遠藤さんが義足研究をスタートさせたきっかけとなったのは、高校時代の後輩の存在でした。病気によって足を切断することになった彼は「自分の足で歩きたい。二足歩行でロボットが歩いたとしても、僕が歩けるようにならないと意味がない」と遠藤さんに語ったそうです。

その言葉に衝撃を受けた遠藤さんは、義足を研究することを決意。アメリカのMITメディアラボに留学し、ヒュー・ハー教授の研究室に所属します。ヒュー・ハー教授は、ロッククライミング中に遭遇した事故によって、自らも両足が義足になったものの、登山を継続。さらにMITメディアラボにて義足の研究・実践を行う、世界的権威です。

「僕は、ヒュー・ハー教授の『世の中には身体障害というものはない。ただ技術の方に障害があるだけだ。』という言葉が好きなんです。本来、身体にいくら障害があったとしても、技術によって日常生活の困難は取り除くことができます。その技術を作るために我々は研究をしているんだと仰っていて。当時から僕はその姿勢に憧れを抱いているんです」

遠藤さんは、これまで様々なニーズに合わせて義足を作ってきました。現在の活動にも影響を与えているという、途上国でのプロジェクトについて遠藤さんは語ります。

「インドをはじめとした途上国では、安価であまり質の良くない義足が出回っていました。そこで、より本物の足の見た目に近く、ネジがついて微調整がしやすい義足を制作したんです。その義足は、現地の人たちにとても喜ばれました」

さらに、遠藤さんが義足を制作する様子を間近で見ていた現地の人たちは、なんと自分で義足制作に取り組み始めたのです。

「元々、途上国の人たちには『自分たちでものを作る』という発想があまりありません。でも、僕たちと一緒に義足を作るプロセスを経験することによって、自分もできるかもしれないと思う人が出てきた。僕たちは、このプロジェクトを通じて『自分でやり始める』という新たな文化を作ることができたんです」

より人間の足に近い義足の動きを実現するXiborg

より生身の人間のように動く義足を作りたいと考えた遠藤さんは、2014年に、義足の研究・開発を行うためにXiborgを立ち上げました。

Xiborgがソニーコンピュータサイエンス研究所と共同研究開発をしているロボット義足「SHOEBILL」の特徴は、モーターが取り付けられていること。通常の義足は足首が動かせないために地面を蹴る動作ができません。見た目は歩いているように見えるかもしれませんが、足首を動かさない代わりに股関節と周辺の筋肉を大きく使うため、とても疲れやすいのだそう。そこで、遠藤さんたちは膝や足首関節の部分にモーターやコンピュータを取り付け、関節を動かせるようにすることで、義足を普通の足の動きに近づけることを目指しました。

そうして生まれたSHOEBILLを携え、Xiborgが挑んだのが、スイスで開催された「サイバスロン」という大会です。サイバスロンは、義足や義手などを使った障害者アスリートが出場する国際大会。障害者スポーツの競技大会であるパラリンピックに対し、サイバスロンはテクノロジーの精度が重視され、障害物走などで義足や義手の動きを競います。満を持して出場した遠藤さんたちのチームでしたが、残念ながらこの大会では敗北してしまいました。

「この大会で学んだのは、義足がいくら良くても、その人自身が使いこなせないと意味がないということでした。サイバスロンで上位に入ったチームは、皆モーターがついていない義足を使っていたんです。テクノロジーの進化が、まだ身体の動きに追いついていないということを実感しました」

義足そのものだけでなく、使いこなす人と技術が重要になる。そう考えた遠藤さんたちは、義足だけでなく、走り方を提案することができるチームを結成します。一流のアスリートであり、事業家としても多方面で活躍する為末 大さんがチームメンバーとして加わり、走りとエンジニアリングの双方を追求することが可能になりました。

「義足を使った走り方は人によって千差万別です。その人の筋肉や関節の使い方に合わせて、義足だからこそできる細かな調整を行いながら、健常者のような走り方を実現させたいと考えています」

遠藤さんの思いから生まれた活動は、徐々に結果が出はじめてきています。リオパラリンピックでは、世界の大手メーカー2社とXiborgの義足のみが使用され、世界中の注目を浴びました。さらには、日本のトップパラリンピアンや、世界ランキング2位の外国人選手がXiborgの義足を使用するなど、トップアスリートからも着実に注目を集めています。

「走りたい」と思った人が、いつでも義足で走れる環境をつくる

厚生労働省の調査(2006年)によると、日本にはなんらかの理由で足を切断した人が約6万人も存在しています。しかし、アスリートを含め、義足を使って走ることができる人はほとんどいません。走るための義足が非常に高価であることや、義足をつけて走る練習ができる場所がほとんどないこと、専門家でなければ義足の取り付けが難しいことなどがその理由です。

“学びたいと思う人が自由に本を手に取ることができるように、走りたいと思う人が自由に義足を手に取ることができるようにしたい”、そう考えた遠藤さんは、新しく空間をつくるプロジェクトをスタートさせました。

現在、立ち上げ中の新豊洲Brilliaランニングスタジアム、通称「義足の図書館」には、全天候型60m陸上競技トラックとXiborgの義足開発ラボラトリーが併設。

エンジニアチームが義足を作り、その場で義足を使用したい人がテスト、エンジニアチームと調整するという流れを繰り返し、義足を使いこなす技術を身に着けることができる場となっています。同施設では、走ることに特化した様々な種類の競技用板バネも用意。訪れた人誰もが板バネをレンタルし、実際に義足の走りを体験することが可能です。

「特に、子どもにこの場所を使ってほしいと思っています。子どもは自分の成長に合わせ、義足を作り替えなければならず、大人よりも義足にお金がかかってしまいます。しかし、子どもこそ走りたいという感情を持っているはず。どんな子どもでも、ここに来たら走ることができるという環境を用意してあげたいと思っています」

障害者が健常者を超えていく

遠藤さんは、これまで様々な義足と、義足を取り巻く環境作りに取り組んできました。遠藤さんの活動には、「身体能力における、健常者と障害者の枠組みを変えたい」という想いが根底にあります。

「メガネは視力を向上させる機能を通し、健常者と障害者の身体能力を行き来させていると僕は考えています。人は誰しも、歳をとることで身体機能が衰えます。視力はもちろん、筋力が衰えることで、歩けなくなる人もいる。歩けなくなった人は、そのとき初めて『自分は障害者と同じではないか』と気づく。僕はメガネのように、テクノロジーを用いて人間の身体能力における健常者と障害者の枠組みを変えたい。障害者や健常者というとらえ方すらない将来を作れるのではないかと考えています」

遠藤さんが目指す未来の糸口は、すでに見えていると話します。2012年に行われたロンドンオリンピックでは、オスカー・ピストリウスという義足の選手が出場し、見事準決勝まで進出。しかし、彼はその後行われた北京パラリンピックでは優勝することができませんでした。つまり、健常者と対等に戦った義足の選手を、さらに別の義足の選手が超えていったのです。

障害者が健常者を超えていく日は、そう遠くないと遠藤さんは語ります。

「一般的に、障害者は社会的に弱い立場にあると考えられがちです。でも、僕はその概念がひっくり返る瞬間が必ず来ると信じています。まずは2020年の東京、あるいは2024年のオリンピックで、義足の人が健常者よりも速く走るという光景を見せたいですね」

障害者も健常者もいない、融合した未来をつくる

遠藤さんのお話の後、会場では参加者によるディスカッションを実施。その後、遠藤さんへ質問タイムが設けられました。

自身も義足を制作しているという方からは、義足をつくる資金をどう集めているのかという問いが上げられました。

遠藤さん「義足は基本的に儲かりにくいんです。でも、本当に求めている人は、高い義足でも買ってくれます。また、研究予算として資金を確保する方法も考えられます。僕たちの場合は、企業をターゲットに設定し、義足の体験会を開催しています。資金を提供したいけれど、どこに出したらいいのかわからないという企業も少なくありません。体験を提供し、関心を持ってもらうため積極的に活動を行っています」

続けて、東京オリンピック以降の研究の方向性について問われると、遠藤さんは「今自分たちが研究として行っていることが、社会的に当たり前に実現できている世界をつくりたい」と話しました。

遠藤さん「僕たちは今メガネかけている人を“目が悪い人”と認識していないように、義足も、”足が悪い人”ではなく人間の足と同じように認識されるところまで技術力を高めていきたい。義足も人間の足の一部として認知されている未来を実現させたいですね」

障害者も健常者もいない、融合した世界をつくりたいと語る遠藤さん。より人々が使いやすい義足を求めて、日々研究と実践に向き合うその視線の先には、「障害者という枠も、健常者という枠も存在しない」という新たな文化を持つ未来が、はっきりと捉えられているように感じました。

Startup Hub Tokyoでは、起業を検討している方向けに知識やノウハウを提供するイベントを定期的に開催しています。起業を検討している方は、ぜひ足を運んでみてください。

写真出典:Xiborg, Readyfor

・ゲスト

遠藤謙 / 株式会社Xiborg 代表取締役社長

慶應義塾大学修士課程修了後、渡米。マサチューセッツ工科大学メディアラボバイオメカニクスグループにて、人間の身体能力の解析や下腿義足の開発に従事。2012年博士取得。一方、マサチューセッツ工科大学D-labにて講師を勤め、途上国向けの義肢装具に関する講義を担当。

現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所アソシエイトリサーチャー。ロボット技術を用いた身体能力の拡張に関する研究に携わる。2014年株式会社Xiborg創業、代表取締役社長に就任。2012年、MITが出版する科学雑誌Technology Reviewが選ぶ35才以下のイノベータ35人(TR35)に選出された。2014年ダボス会議ヤンググローバルリーダー。

株式会社Xiborg http://xiborg.jp/

・モデレータ

林曉甫 / NPO法人インビジブル マネージング・ディレクター

立命館アジア太平洋大学アジア太平洋マネジメント学部卒業。卒業後、NPO法人BEPPU PROJECTにて公共空間や商業施設などを利用したアートプロジェクトの企画運営を行い、文化芸術を通じた地域活性化や観光振興に携わる。2013年に独立し、2015年にNPO inVisibleを設立し現職。別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界2012」事務局長(2012, 別府)、鳥取藝住祭総合ディレクター(2014,2015, 鳥取)六本木アートナイトプログラムディレクター(2014〜 東京), 女子美術大学非常勤講師(2016)

執筆:原田恵(inquire)

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