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【イベントレポート】〈本〉はまだまだ可能性 を秘めたメディア─文化起業家・中島 佑介

2017年11月24日、Startup Hub Tokyoでは「アートブックと人をつなぐプロデュース力─文化起業家#11─」を開催しました。

このイベントシリーズでは、「事業を通じて社会に対し新しい市場や価値を創出するだけではなく、新たな文化を提示している起業家」を『文化起業家』と捉え、文化起業家自身が見たい景色や風景について語ります。

今回のゲストは、 出版社という括りで定期的に扱っている本が全て入れ代わるアートブックショップ「POST」を経営する中島 佑介さん。2015年からはTOKYO ART BOOK FAIRのディレクターも務めています。このトークセッションでは、アートブックショップをオープンした経緯から、高い企画力・発信力で仕事の幅を広げてきたこれまでの道のりが語られました。

12歳のころには自分の店を持つと決めていた

中島さんは大学を卒業すると同時に、オンラインブックショップを開きました。自分の店を持って生計を立てようと決心したのは、なんと12歳のころだったそうです。きっかけはお姉さんとのフリーマーケット参加でした。いらなくなったものをまとめ、長野から東京の会場にお姉さんと一緒に上京しました。ものを売るのはそのときが初めてです。体験してみると、ものの価値観を人に伝えたり、新しい価値観を提供できる接客という行為がとてもおもしろいと思いました。

その後も中島さんの決意は変わらず、商業に関する知識が必要と大学は商学部へ進みます。自分は何を売るか、音楽や絵画、写真などあらゆる文化的なものすべてが好きで一つに絞りきれないと思い悩んでいるとき、〈本〉という媒体であればそのすべてを扱うことが可能だと気づきました。東京・外苑前にあるワタリウム美術館のミュージアムショップ「オン・サンデーズ」で書籍接客アルバイトを経験したのち、卒業直後に200万円携えて本を買い付けにヨーロッパへ。店舗を構えるだけの余裕はなかったため、最初はオンラインショップでスタートしました。なかなか売れなかったそうですが、オンラインショップを見ていた東京・江戸川橋にあるギャラリーのオーナーが、「期間限定で本を売りませんか」と声をかけてくれます。リアルの店舗を持ってみると、買い付けてきた本は予想以上に売れ、ギャラリーのオーナーも喜んでくれました。また、雑誌「美術手帖」の巻頭特集で取り上げられるなどアート愛好家の間で注目を集めます。その後も期間限定販売を続けますが、納品・撤去作業が大変なことから「定住の地」が欲しくなってきました。

定期的に本がそっくり入れ代わるブックショップ「POST」誕生

そこで見つけたのが、現在も拠点とする恵比寿の店舗です。中島さんは両親から500万円借りて、念願のリアルブックショップを開業します。内装や家具を考えぬいて、本を読む空間そのものを提案したのです。

しかし、中島さんはしだいにジレンマを感じ始めます。自分の興味だけで本を選んでいていいのか、もうちょっと広がりのある紹介はできないか。そう自問していたら、「代々木VILLAGEにコンテナタイプのブックショップを開かないか」という提案が舞いこみます。コンテナの間口は約2.5m×2.5m。限られた空間で展開するなら何かアイデアが必要です。ひらめいたのが出版社という括りで本を紹介し、定期的に本が入れ替わっていくスタイルでした。世界には質の高いアートブックを刊行している出版社があり、中島さんも「ここが出す本なら」と信頼して買い付けているところがいくつかありました。そこで頭に浮かんだのがドイツ・ケルンの出版社兼書店のウォルター・ケーニッヒ書店です。

一番始めに紹介するならこの出版社と考え、すぐさまメールを出しました。年中多忙な会社でふだんはなかなか反応がないのに、このときはすぐに「おもしろそうだ。会って話したい」と返事が。さっそくケルンに飛んで話をまとめ、2011年11月、出版社括りで定期的に本がそっくり入れ代わるブックショップ「POST」を代々木VILLAGEにオープン。その後、2013年にPOSTを恵比寿へと移転し、現在に至っています。

時期を同じくして店舗外の仕事も始めました。代表的な例は、コムデギャルソンの川久保 玲氏がディレクションするコンセプトストア 東京・銀座の「DOVER STREET MARKET GINZA COMME des GARÇONS」におけるブック・コーディネートです。

一方、TOKYO ART BOOK FAIRは、2009年にスタートしたアート出版に特化した日本で初めてのブックフェアです。

中島さんは2011年から出展。そのセンスある発信力が評価され、2015年からディレクターを務めています。ここで実現した画期的なプロジェクトが、「STEIDL BOOK AWARD JAPAN」でした。世界最高峰のアート出版社と評されるドイツSteidl 社の協力のもと、「本」という形式を使った作品を日本で募り、グランプリ受賞作品をSteidl社の書籍として出版するというもの。2016年5月に応募を公開し、同年8月に締め切るというタイトなスケジュールでしたが600点以上ものダミーブックが集まりました。その知らせにシュタイデル氏が感動、日本へやってきて直接選考。結果的に8人のファイナリスト作品すべてがSteidl社の書籍として出版されることになりました。

出版不況の今こそ、〈本〉にとっていい時代

セッション終盤はモデレーターを務める林さんが進行をリード、中島さんの文化起業家としての「経営哲学」を探っていきました。

一見、アートブックは対象や市場の限定された世界のように思われますが、中島さんは「そういうわけでもない」と語ります。

「〈本〉を形あるものとして欲しいと思う人は確実に増えてきたと感じます。特に若い人たちの間では、〈本〉が僕らの世代とは違う認識でとらえられて再評価されています。僕などは『本は自分の手の届かないところまで届けられるメディア』だと思っていたんですが、彼らは『自分の手の届く範囲で止まるメディア』だというんですね。SNSは一回発信すると勝手にリツイートされたり、共有されたりして無制限に拡散してしまうリスクがありますが、本は自分が渡した相手までで止まる、と。『POST』で著者を招いたブックサインを開くというと『来たい』という若者は多く、常にコミュニケーションが付随したメディアとしてとらえているのがおもしろいと思います」

日本は出版不況と言われて久しく、紙の出版物は減少の一途をたどっています。しかし、〈本〉にはまだまだ可能性がある、と中島さんは言葉に力をこめます。

「減少しているのは、〈本〉でなくても伝えられる情報を扱った〈本〉。今はかえって〈本〉にとっていい時代。このような時代だから何を〈本〉として表現するべきかという精査が進んでいて、その結果今まで以上におもしろい〈本〉が増えていると思います」

中島さんはまた、思いついたらとにかく行動、という大胆さも持っています。ケーニッヒショップも、DOVER STREET MARKET GINZA COMME des GARÇONSも、シュタイデル氏とのコラボレーションも、中島さんからのアプローチがきっかけで実現しました。「大御所だから難しいだろう、と臆せずに、まずは自分のアイデアを伝えてみるのがいいと思います。面白いと思ってくれたら『いいよ』と言ってくれるものですよ」(中島さん)

自分のやりたいことをきちんと形にすれば結果は必ずついてくる

トークセッション最終盤には、これから起業を考えている人にも参考になる質疑応答が交わされました。

─26歳でリアル店舗を開業、経済的な面で不安はなかったか

「最初からまったく不安はなかったです。オープン直後は自分に給料を払っていない状態で会社の預金通帳残高が6万円だったりしましたが、ギャラリーでの販売で、自分がセレクトした本を欲しいと思ってくれる人がいるのがわかったので、自分のやりたいことをきちんと形にすれば結果は必ずついてくる、と思っていました」

─企画のアイデアはどのようにして生まれるのか

「僕は内にこもって自問自答するタイプです。アドリブでパッとアイデアを出すのは苦手ですが、一人でずっと考えているうちに『これだ』と思う答えが浮かんできます」

─本の中身ではなく、本の形状そのものにも興味があるか

「残念ながら、ないです。僕にとって本の定義は、『メディアであること』『3次元的に体感できるものであること』『印刷・製本などの工程を経て、ある程度の数が量産されたものであること』。だから僕にとって電子書籍は本ではありません。本自体が作品になっているものは、アートに属するのかなと思います」

最後、「この先、どんな情景が見たいですか」と尋ねた林さんに対して、中島さんはこう答えました。

「日本にも見えないものに対価を払うという考えが根づいていけばいいと思います。オランダなどはこの考えがすごく浸透していて、アーティストが対価を得ながらいい仕事をするというサイクルが確立しています。日本の文化全体が発展していくという情景を見たいですね」

写真出典:3枚目 https://de.wikipedia.org/wiki/Buchhandlung_Walther_K%C3%B6nig, 4枚目 ©Shin Hamada

・講師

中島 佑介
1981年長野生まれ。出版社という括りで定期的に扱っている本が全て入れ代わるアートブックショップ「POST」代表。ブックセレクトや展覧会の企画、書籍の出版、DOVER STREET MARKET GINZAをはじめとするブックシェルフコーディネートなどを手がける。2015年からはTOKYO ART BOOK FAIRのディレクターに就任。
www.post-books.info

・モデレーター

林 曉甫 / NPO法人インビジブル 理事長/マネージング・ディレクター
立命館アジア太平洋大学アジア太平洋マネジメント学部卒業。卒業後、NPO法人BEPPU PROJECTにて公共空間や商業施設などを利用したアートプロジェクトの企画運営を行い、文化芸術を通じた地域活性化や観光振興に携わる。2013年に退職し、2015年にNPO法人インビジブルを設立。別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界2012」事務局長(2012, 別府)、鳥取藝住祭総合ディレクター(2014,2015, 鳥取)、六本木アートナイトプログラムディレクター(2014~2016, 東京)、Salzburg Global Forum for Young Cultural Innovators(2015, Salzburg)、女子美術大学非常勤講師(2016)

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