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【イベントレポート】兼業起業家のリアル、会社にいながら起業する生き方とは?

起業を支援する「Startup Hub Tokyo」では、定期的に起業に役立つセミナーやイベントを開催しています。2017年6月16日には「会社を辞めないと起業できない?! ―様々な起業の選択肢―」を開催。

本イベントは、会社に所属しながらもさまざまな形で起業している方をお招きし、辞める以外の起業の選択肢を考えていきます。

今回はゲストに、株式会社エクサインテリジェンスCOOで、株式会社パソナテックでも取締役を務める粟生万琴さん、NPO団体Girls in Tech日本支部代表で、ダイキン工業株式会社の技術者も務める加藤愛子さん、ノバルス株式会社 代表取締役の岡部 顕宏さんをお迎えしました。一般社団法人Work Design Lab代表の石川 貴志さんがモデレーターを務め、ゲストのみなさんに起業したきっかけや、複業する上での考え方についてお伺いしました。

社外での起業や複業、新しい働き方への挑戦

100人以上もの参加者が詰め掛けた今回のイベントの前半は、4人によるパネルディスカッションからスタート。モデレーターの石川さんが、粟生さん、加藤さん、岡部さんの3人へ質問しながら、ゲストのみなさんの経歴について伺っていきました。

粟生さんは、パソナテックの取締役を務めながら、AIベンチャー・エクサインテリジェンスを立ち上げ取締役COOを務めていらっしゃいます。

教育・実務訓練を受けたIT人材と企業とをマッチングする人材育成事業や、クラウドソーシングサービス「Job-hub」など、パソナテック社内で新規事業の立ち上げを経験した粟生さんが、社外で新規事業を行うことになったきっかけは、現・エクサインテリジェンス代表取締役会長兼社長の春田さんにこんな言葉をかけられたからだそうです。

『社内で新規事業の立ち上げを経験しているのに、なぜ自分の手で起業しないのか?社内だけでなく、社外での起業経験もなければ、起業家を支援できないだろう』

粟生さんは、当時のことを振り返り、こう語ります。

粟生「起業家支援の審査会に参加した際に、春田に出会って言われた言葉です。その頃、もし自分が起業するならインターネット分野の次に、世間の潮流になるだろう、AIという新領域での事業を考えていました。それを春田に話したところ、彼自身もAIの領域で事業を立ち上げることを検討しており『それなら一緒にやろう』という話になり、現在に至っています」

既存の組織を活用した社外での複業

加藤さんは女性起業家や女性技術者を支援するためのNPO団体Girls in Tech日本支部代表を務めながら、ダイキン工業株式会社で技術者職に就いています。2007年にアメリカのサンフランシスコで設立されたGirls in Techは、現在、ヨーロッパやアフリカ諸国、そしてここ日本も含め、世界63支部もの国と地域に広がっています。

加藤さんの勤務先の会社内で、女性技術者の比率は10%以下。かねてから、自分と同じような環境に身を置く仲間と、仕事のことについて話したり、自身のキャリアを考えるきっかけを得たりしたいと考えていたそうです。そんな彼女にとって、Girls in Techの活動は、自身の考えを体現してくれる場所でした。

現状、Girls in Techの活動を通じた経済的なリターンはありません。それでも活動に従事する理由について、加藤さんは次のように語ります。

加藤「Girls in Techの活動を通じて、社内にいるだけでは会えないような人と出会うことができます。女性のキャリア促進に取り組む企業とのつながりはもちろん、技術業界にいる同じような意識を持つ女性と交流が持てる点が、私にとって大きなメリットです。Girls in Tech Japanの活動を通じて、多くの意識が高い方々と出会うことはモチベーション向上に役立っています」

「人・モノ・金」という材料が揃ったことで、事業に専念できた

岡部さんは、セイコーインスツル株式会社で勤務しているとき、企業に務めるエンジニアが考えているアイデアの種(ヤミ研究)を会社の枠を超えて互いにシェアし合い、そのアイデアを形にしていく「ヤミ研」という部活動的なプロジェクトを立ち上げました。

その後、会社を退職し、ノバルス株式会社を設立。現在は、ヤミ研から生まれた、Bluetoothを通してスマートフォンから制御できる電池「MaBeee」のプロダクトオーナーを務めるなど、プロジェクトから生まれたアイデアの製品化を手がけています。

岡部さんが会社を退職し、ノバルスを立ち上げたきっかけは、人・モノ・金、この3つの要素において、材料が揃ったことにありました。

岡部「事業をしていく上で大事となる要素が、人・モノ・金、の3つです。人の面では、経営の一端をサポートしてくれる方と出会えたこと。モノの面では、ヤミ研で生まれたアイデアのプロトタイプが、ユーザーインタビューなどで『ぜひ欲しい』という意見を数多くいただけたこと。お金の面では、収入がなかったとしても、半年間は暮らせるお金を蓄えたこと。それぞれ材料が揃ったことが、会社を辞めて自分の会社に専念するきっかけになったと思います」

現在の働き方を通じて実現していきたいこと

モデレーターの石川さんから「今後実現していきたいことは何か?」という質問が3人に投げかけられました。この質問に対し、最初に回答した粟生さんは、「会社が複業を推奨する時代だからこそ、多様な働き方を今後も推奨していきたい」と話します。

粟生「育児世代の女性、就職先の選択肢が少ない地方の大学生に向けた『新しい働き方』提案や、会社員以外の新たな雇用を生み出すための『Job-hub』というクラウドソーシングを担当するなど、働き方についてこれまでずっと考えてきました。私自身も現在、会社に所属しながら社外で取締役を務めることで充実感を持って仕事に取り組めています。この経験からも、今後は複業や兼業をマジョリティにしていきたいと考えています」

粟生さんは複業を継続しながら、一児の母として家事や育児にも取り組んでいます。育児世代の女性の働き方の1つとして、自分のような働き方もできることを知って欲しいとおっしゃっていました。

続いて加藤さんは、現在のGirls in Techの活動のなかで実現したいことについて次のように説明します。

加藤「Girls in Techは技術系女性を支援する組織ですので、企業から優秀な女性エンジニアを獲得したいという要望を多くいただきます。人財獲得面では,成果を残せているとは言えません。この企業と女性エンジニアのマッチング数を増やすことは組織として継続的に追っていかなければいけないテーマです。」

さらに、Girls in Techの活動を通じて、運営メンバー自身も、成長し,会社等の枠を超えて飛躍して欲しいと話します。

加藤「Girls in Techの活動をする側、つまり運営メンバーも、活動を自身のキャリアを考えるきっかけにして欲しい。多くの女性起業家や技術系女性のキャリアを目の当たりにする中で、自身の目指すべき姿も浮かび上がってくるかもしれません。人のキャリアを通して自身のキャリアを考えるきっかけの場としてもらえればと考えています。」

岡部さんは「まず今の「MaBeee」事業を成長させた後、その上でいずれは事業をインキュベートさせる場を作りたい」と語りました。

複業をすることで「個人の認知度」も向上する

後半は参加者からの質疑応答の時間に。みなさん、複業に関心がある人たちばかり。みなさん、どんなことが気になったのでしょうか?

「複業によるメリットは、どういうことがありますか?」という質問に対し、加藤さんは次のように説明していました。

加藤「メリットは、個人を認知してもらえる機会が得られることですね。企業に所属していると、どうしても企業の名前が先立ってしまい、個人として認知してもらえる機会は多くありません。しかし、社外で活動する中で出会った人々からは『加藤愛子』という個人として覚えていただく機会が増えます。個人としての認知度が向上することによって、会社に所属するだけでは会えない人に会え、仕事の幅が広がります。逆に、会社の肩書きがあるからこそ出来ることにも気付かされ、悔しさを感じることもありますが、それに気付けたことも私にとって大きな成長でした。」

多様な働き方が可能になってきている現代において、より自由なワークスタイルを実現するために個人の認知度向上は不可欠な要素。例えば、起業したての頃、まだ実績のないサービスや製品を「支援したい」と思ってもらうためには、「誰がやろうとしているのか?」が重要になります。個人を応援しようとしてくれる支援者がどれだけいるかは、自分が選びたい道を選べるようにしていく上で大切なことです。

人と違うことをして生きる

新しい働き方に挑戦しているゲストのみなさん。どんなことを参考にしながら、働き方の試行錯誤を重ねていっているのでしょうか。

岡部「私には目指している会社があります。以前のソニーです。起業した会社はソニーのように、新しい価値を世の中に提供し続けられる会社を目指したいですね。」

加藤「特定の誰かではないのですが、自分で考えて決断している人をモデルとして意識することが多いです。私自身、自分で考えることは常に意識しています。自分で考えて行動している方に出会うと、自然と尊敬の眼差しを向けています。」

粟生「私は父のことを師匠と呼んでいます。事業家の父のもと、幼少期からよく『人と違うことをして生きろ』と言われて育ってきました。『これからの時代は、変化が激しい。だから、人と同じことをしていても生き残れない』と言っていたのをよく覚えています。父の教えがあったからこそ『人と違うね』と言われても、コンプレックスを抱くことなく前進できた。その結果、今があると思っています」

それぞれ、その根底に流れる考え方やスタンスを磨いてくれる存在はいらっしゃるようです。岡部さんは、最後に会社に所属しながら起業することの利点について参加者に伝え、イベントは締めくくられました。

岡部「私は結果的に会社を退職しましたが、会社のなかで新規事業を任せてもらえる環境があるなら、ぜひ活用するべきだと思います。辞めて独立するだけが起業の選択肢ではありません。社内で、会社の持つアセットを活用して起業を経験することにも大きな価値があります」

会社を辞めて、独立することを起業と捉えがちですが、今回のゲストのみなさんのように、現在の会社に所属しながらも、起業や複業に取り組むケースはあります。

実際に実践している方々がいらっしゃるように、現在、会社に所属しているからといって、起業という選択肢を選べないわけではありません。社内のアセットを生かし起業することはもちろん、特にお子さんがいたり、家のローンが残っている場合など、会社に所属するという安定的な基盤を残しておくことで、その後のリスクヘッジにもつながります。

「帰る場所がある」という安定した基盤があるからこそ、挑戦できる幅も広がるかもしれませんね。起業を検討している方は、現在の会社を辞める以外の選択肢も模索してみてはいかがでしょうか。

・ゲスト

粟生 万琴(あおう まこと)/ 株式会社エクサインテリジェンス COO、株式会社パソナテック 取締役
エンジニアとしてソフトウェア開発に従事した後、2003年 株式会社パソナテックに入社。中部エリアの立ち上げ責任者として従事、3年連続MVPを受賞。2010年 社内ベンチャーを立ち上げ、Webアプリ開発に特化した事業を手掛ける。2012年同社初の女性執行役員として就任、新規事業、およびマーケティング責任者として、海外拠点タイ事業の立上げ(JV)、クラウドソーシングサービス(Job-Hub)の責任者、産官学連携プロジェクト責任者として従事。

加藤 愛子(かとう あいこ)/Girls in Tech Japan 代表、ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 研究員
2010年 ダイキン工業株式会社に入社。奈良先端科学技術大学院大学内に社会課題を見据えた事業化プロジェクトの実施拠点として「未来共同研究室」を立ち上げた。現在は、オープンイノベーションをキーワードに 新規事業開発を担当。株式会社三井住友銀行・株式会社日本総合研究所主催の「未来2016」では優秀賞を受賞。ベンチャー支援も行う。2016年3月にサンフランシスコ発の技術系女性と女性起業家の成長を支援するためのNPO団体「Girls in Tech」の日本支部を立ち上げ、2016年9月には大阪で初イベント、12月には東京でローンチイベントを開催。

岡部 顕宏(おかべ あきひろ)/ノバルス株式会社 代表取締役
2002年セイコーインスツル株式会社入社。技術本部 新事業推進部にて、国内時計業界初となるBT-Watchの規格策定や電子マネー端末の事業化などを推進。元ソニー株式会社CEO出井伸之氏、慶応義塾大学教授で数々のベンチャー経営者を育てた武藤 佳恭氏を顧問に迎え、2015年ノバルス株式会社を設立 。2016年8月には乾電池型IoTデバイス「MaBeee(マビー)」を発売。2016年グッドデザイン賞 金賞(経済産業大臣賞)、同年キッズデザイン賞 優秀賞(経済産業大臣賞)、同年クラウドファンディングMakuake ビジネスインパクト賞などを受賞。

・モデレーター

石川 貴志(いしかわ たかし)/一般社団法人Work Design Lab 代表理事、複業家
株式会社リクルートエージェント(現株式会社リクルートキャリア)の事業開発部門マネジャーを経て現在、書籍出版流通企業の経営企画部門にて勤務。第一子の誕生をきっかけにボランティア・地域活動を開始。2012年より本業外の活動としてNPO・社会起業家に対して投資協働を行う特定非営利活動法人ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京のパートナーとしても活動開始。現在は、公益財団法人ひろしま産業振興機構の創業サポーター、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するTIP*S アンバサダーも務める。1978年生まれ、三児の父。

執筆:吉田祐基(inquire)

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