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【イベントレポート】ハードウェアで成功するために、まずは作りはじめよう ー第1回スタハMeetup

起業を支援する「Startup Hub Tokyo」では、数々の切り口でイベントを開催しています。Startup Hub Tokyoがお送りするイベントの中でも、登録メンバーを対象としたミートアップイベントシリーズが「スタハMeetup」です。

4月27日に行われた第一回目のテーマは「ハードウェアスタートアップとは」。小型分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を開発するオリィ研究所所長・ロボットコミュニケーターの吉藤健太朗さんをゲストにお招きし、OriHimeの開発秘話や起業のきっかけについて語っていただきました。

吉藤さんの講演後には、トークセッションも実施。吉藤さんとIoTプロダクトのプロデュースやコンサルなどを行う株式会社CAMI&Co.代表取締役の神谷 雅史さんが、ハードウェアスタートアップの立ち上げにおけるポイントなどについて語っていただきました。

人と人をつなぐロボット、OriHime

OriHimeは、「ロボットと人ではなく、人と人をつなぐロボット」をコンセプトに開発された小型ロボット。
車椅子での移動が難しい方や、遠方まで足を運ぶことが難しい状態の方が、OriHimeを通して自身の声や動作を伝えることが可能です。OriHimeには、マイクとスピーカーが内蔵されており、ユーザーはOriHimeを通じて遠く離れた場所に自分の声を届けたり、OriHimeの腕をスマホで操作したりすることで、そのときの感情や思いを、よりダイレクトに表現可能です。

孤独感を解消するプロダクトを作りたかった

OriHime誕生の背景には、吉藤さんの小・中学生時代の不登校の経験がありました。

当時、家に引きこもっていた吉藤さんを支えてくれたのは、両親や身近な友だち。その経験から、吉藤さんは「人の役に立ちたい」という思いを早くから持つようになります。折り紙やフィギュアづくりが大好きだったこともあり、モノ作りの道を志します。

「人の役に立つもの」を作りたいと高校に入学した吉藤さんが出会ったのが、車いすでした。吉藤さんはリサーチによって、車いすを使い始めたユーザーは「ついに車いすに乗るようになってしまった」と自分の状態に対して、ネガティブな感情を持ちやすいということを知ります。

「新しい足を獲得した」というポジティブな思いを持てる車いすを作りたいと考え、電動車いすの研究にまい進。その結果、世界最大の科学コンテストIntel International Science and Engineering Fairにて第3位の成績を受賞。一躍有名になった吉藤さんの元には、障害者の人たちから相談が舞い込むようになりました。『障害が重くて外に出ることすらできない。それがすごく寂しい』という障害者の方々から、連絡をいただくようになったんです。ご連絡いただいた方々にインタビューをすると、『人に会えない』ことから生まれる孤独感や劣等感は、身体的な問題と同じくらい辛いことなんだとわかりました」

孤独感に苛まれる姿は、吉藤さん自身が不登校だった頃の姿と重なりました。気が付けば天井を見続け、せっかく友達が来てくれても、うまく話すことすらできなくなっていた自分。同じ思いを知る自分だからこそできることがあると気付いた吉藤さんは、「人の孤独感や劣等感」を解決するプロダクトを作ることを決めます。

自分の思いを貫くことが、自分のモノものづくり実現への近道

自分が目指すプロダクトを実現すべく、モノづくりを専門的に学ぶことができる高等専門学校に進学した吉藤さん。

私服校だった高専では、既製品で気に入った服がなかったため、吉藤さん自らデザイン・縫製した「黒い白衣」を着て通学していました。その服装のため、まったく友達ができなかったそうです。ただ、この経験はモノづくりにおいてとても重要な気付きを与えてくれたと吉藤さんは話します。

「僕にとってはこの服が本当に欲しいものだったから着始め、今でも着続けています。最近は徐々に理解してくれる人も現われ、『その服を作ってくれませんか』と言っていただけることもあります。
自分が欲しいと思ったなら、たとえ周囲から理解を得られずともに作り続けてみる。作り続けていれば、求めてくれる人がいずれ現れるはずです」

当時の吉藤さんは、「人の孤独感を解消する」プロダクトを実現するために人工知能に注目していました。しかしあるとき、「本当の癒しは人工知能では実現できない」ことに気づきます。

「自分が孤独を感じるようになったのは、学校に行けなくなったのがきっかけでした。では、人工知能がサポートしてくれたら学校に行けるようになるかと考えたとき、僕は『違う』と思いました。僕が学校に復帰できたのは、先生や友達、両親の支えがあったから。このとき、『本当の意味で人が救われる瞬間は、人と人との間にしかないのではないか』と感じてしまったんです」

吉藤さんは、悩みぬいた末に「自ら考える力を持ち、孤独を感じる人の相手になってくれる」人工知能の開発を断念。そして、その思いを新たに託したのは、ロボットでした。ロボットが「孤独を感じる人と、周囲の人の架け橋」になることを目指したのです。

開発の舞台を大学に移した吉藤さんでしたが、自分が入りたいと思える研究室と出会えませんでした。しかし吉藤さんはあきらめず、自宅に自らのラボ「オリィ研究室」を開設。OriHime開発に向け日夜準備を進めていきました。そして2012年、株式会社オリィ研究所を設立します。

ユーザーの意見を最大限取り入れることで、より良いプロダクトを実現

OriHimeには人工知能などは搭載されておらず、音声や動作など、すべて人が操作を行います。操作する人の意図通りに動くことで、ロボットでありながら、対面しているとあたかもそこに操作している人自身がいるかのような感覚が生じるといいます。

腕も元々はついていなかった機能の1つ。言葉だけではなく腕の動きがあると、よりその人がそこにいるように感じられて嬉しいというユーザーの反応を受け、腕をつけることに。そのことで、より感情豊かな表現が可能になりました。

コンセプトを大事にしながらも、ユーザーの意見を最大限取り入れて、改良を繰り返す。そうして、今のOriHimeが形作られたのです

OriHimeが目指すのは「存在感の伝達」

吉藤さんがOriHimeを通じて目指すのは「存在感の伝達」です。

「100年前には情報に価値があることを知っている人はいなかったかもしれません。しかし、今は情報が非常に大きな価値をもっている。何に価値が生まれるかは、時代によって変化します。僕は、これまでの人生やOriHimeの開発を通じて、そこにその人がいること、即ち“存在”の価値が間違いなくあると信じています。OriHimeによって、存在感を伝えるということに挑戦したいんです」

OriHimeがサポートするのは、障害者や入院患者といった人々だけではありません。「どうしても行きたいけど行けないところがある」あらゆる人々に対して、可能性をもたらします。たとえば、育児や保育、病気、ケガなど様々な理由で出勤できない人は、OriHimeを使うことで、存在感を持ってリモートワークを行うことができます。実際に、OriHimeをリモートワークのコミュニケーション手段として採用する企業が増えてきていると吉藤さんは語りました。

ハードウェアスタートアップは、まずひとりではじめよう

吉藤さんのプレゼンの後は、神谷 雅史さんを交えて「ハードウェアスタートアップとして成長するためのポイント」についてのトークセッションが行われました。

株式会社CAMI&Co.代表取締役・神谷 雅史さん。

神谷さんは、まずハードウェアならではのスタートアップの難しさについて語りました。
神谷さん「ハードウェアはソフトウェアと違って後戻りするのが大変。アジャイル開発がしにくいのですが、ソフトウェアと同じように成長できると考えている人が多い。その点、オリィ研究所は、うまく補助金やコンテストによって資金を集めつつ、開発のPDCAを素早く回しているのは素晴らしいと思います」

対して吉藤さんは、自らの経験を踏まえ、ハードウェアスタートアップとして成長するためにはいくつかの大事なポイントがあると話します。

吉藤さん「PDCAを素早く回すためには、まずはお金をかけず作ってみることが大切です。OriHimeのプロトタイプは、3日くらいあれば作れるもの。アイデアを考える人自身が、プロトタイプを作り、プレゼンまでできれば、仲間もお金も集めることができます。複数人で作ろうとしないこと。まずは自分でものを作り、プレゼンをする。このサイクルを繰り返すことが成長への一番の近道だと思います」

覚悟は大事、でも逃げ道も断ち切らない

さらに2人からは、ハードウェアスタートアップを目指す方へのメッセージが送られました。

神谷さん「ハードウェアスタートアップを、本業の片手間でやろうとしている人もいらっしゃると思います。ただ、ハードウェアは簡単にできるものではない。『これからは、ハードウェアスタートアップとしてやっていく』と言えるくらい、気合を入れて創業しなければ乗り越えられられない大きな壁だと思います」

吉藤さんは、「その一方で、自分自身だけで抱え込みすぎないよう、逃げ道を作っておくことも大事」だと語ります。

吉藤さん「僕も、自分の研究室を立ち上げた時、いざとなったら他の研究室に行こうとも思っていました。あまり気合を入れすぎると、メンタルがついていかなくなることもあります。自分のメンタルの逃げ道を、あらかじめ作っておくことも必要です」

イベントの最後には、今後のハードウェアの方向性に関するお話も伺うことができました。
神谷さん「私は、IoT市場全体に関わるものとして、ハードウェアスタートアップの動きを連携させることで、IoTの生態系を作りたいと考えています。いま、IoT人材は不足しています。なぜなら、国としてこれまで育ててこなかったから。これからはIoTを作るだけではなくて、人材も育てていかなければいけません。さらにその人たちが、下の世代を育てていくというエコシステムを作っていきたいと考えています」

吉藤さん「これからは、ただハードウェアを作れる人材になればいいというわけではないと考えています。ハードウェアに加えて、もう一つ専門分野をもっておくと存在感を発揮しやすい。僕の場合は、一週間に一回くらい難病患者の方にお会いするようにしています。技術ありきで考えすぎない、という視点をもつことも大事だと思います」

参加されていた方々が、真剣に耳を傾けていた姿が印象的だったトークセッション。神谷さんからはたくさんのハードウェアスタートアップを見ているからこそのアドバイス、そして吉藤さんからは実践者としての言葉を伺うことができました。

Startup Hub Tokyoでは、起業を検討している方向けに知識やノウハウを提供するイベントを定期的に開催しています。起業を検討している方は、ぜひ足を運んでみてください。

ゲストプロフィール:

吉藤健太朗(オリィ研究所所長・ロボットコミュニケーター)

学5年~中学3年まで不登校。
高校時代に行った電動車椅子の新機構の発明により、国内最大の科学技術コンテストJSECにて文化科学大臣賞、 世界最大の科学技術コンテストISEFにてGrand Award 3rdを受賞。
その後寄せられた多くの相談と自身の療養経験から、孤独の解消を志す。
高専にて人工知能を研究した後、早稲田大学にて2009年から孤独解消を目的とした”分身ロボット”の研究開発を独自のアプローチで取り組み、 自分の研究室を立ち上げる。
2012年株式会社オリィ研究所 (http://orylab.com/)を設立、代表取締役所長。
分身ロボット”OriHime”、神経難病患者のための視線文字入力装置”OriHime-eye”を発明、
その他バリアフリーマップの開発に関わっている。2014年、日本武道館で開催された
「みんなの夢AWARD4」では、オーディエンス約1万人の前でALS患者が目だけで遠隔操作する2足歩行分身ロボットを披露し優勝。
青年版国民栄誉賞「人間力大賞」、スタンフォード大学E-bootCamp日本代表ほか、Googleインパクトチャレンジグランプリ、AERA「日本を突破する100人」、フォーブス誌が選ぶASIAを代表する青年30人 などに選ばれる。

神谷 雅史(株式会社 CAMI&Co.代表取締役)

慶應義塾大学環境情報学部 (SFC) 卒業後、同大学院修了 (國領二郎研究室)。
その後、日本ユニシスで「目玉おやじロボットPJ」を立上げ、ロボットやIoTに興味を持つ。アクセンチュア戦略部門を経て、IT、経営、ハードウエアの経験から、日本でも稀な「IoT系ものづくりができる経営コンサルティング会社」株式会社CAMI&Co.(キャミーアンドコー https://cami.jp)を設立。
アメリカ西海岸に支社を持ち、現地の事情にも精通し、IoTアナリティクス企業の日本総代理店としてM2M系ビジネスを展開している。
IoT製作見積もりサイト『EstiMake』やIoTデザインに特化した
『EstiMake-Design』、AI制作見積サービス『EstiMake-AI)』、IoT教育事業『IoT-School』などのサービスを展開。
KDDI∞ラボの社外アドバイザーも務めている他、ビッグデータ解析やO2O、AR、VR、システム開発、展示会用の動きのある展示物開発、
補助金コンサルティングサービスなどを行っている。
・株式会社CAMI&Co. https://cami.jp

執筆:原田恵(inquire)
カメラマン:馬場加奈子

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