このロボット何のために作った?をなくしたい 技術とインフラ、事業化の橋渡し役で起業

Startup Hub Tokyo(スタハ)を利用して起業した先輩起業家に、起業までの軌跡をインタビューするシリーズ。
今回は、incubion(インキュビオン)株式会社CEOタカハシショウコ氏にお話を伺いました。
タカハシさんは新卒でHonda入社後、ASIMO事業室への異動をきっかけに、ロボット業界の課題と可能性を感じ2018年に起業。新しいロボットは次々とニュースになるものの、文脈に合わせた使い方がデザインされていない、受け入れる環境が整っていないなど、長期的な視点に立った場合のロボットの使い道が問われるケースが少なくないと言います。
一見、敷居が高いロボット業界ですが、市場ニーズの把握等、課題の根っこは、どんな業界にも共通する「お客様目線」にありました。



起業家プロフィール
incubion(インキュビオン)株式会社 CEO タカハシ ショウコ氏
本田技研工業にて二足歩行ロボットASIMOの事業企画に携わり、ロボットのグローバルオペレーションを管理するだけでなく、国内外でユーザー参加型の実証実験を企画、実現。その後、主力車種の商品企画責任者として開発-製造-販売までの商品戦略企画を担当。その後、ロボットを受け入れる世の中を作る為にはIoTによる社会インフラ改革が必要だと痛感し、コンサルタントとして東京、ロンドン、シカゴなどでプロジェクトに従事。2016年、人々がロボットの様々なトライアルを前向きに受け入れるような世界の実現をサポートするincubionを設立。
一橋大学で競争戦略論を専攻。2016年にソウルで開催されたマサチューセッツ工科大学グローバルアントレプレナーシップブートキャンプにてチーム優勝。Ars Electronica FuturelabにてCreative Producerとしても活動。

会社URL:http://incubion.com/


起業のきっかけは、たまたま配属されたASIMO事業室

入社から数年後、たまたまASIMO事業室に異動になり、そこで初めてロボット事業に関わったのが、今起業している事業を行うことになる発端です。それまではロボットのことは全然わからなかったのですが、人数が少ない部署だったこともあり、コンセプト設計からオペレーション管理、デモンストレーションの案内、はたまたロボットを拭くクロスの発注まで、ASIMOに関わるあらゆることを担当。何でもやるうちに、可能性を感じ、ロボットに関わる事業が好きになりました。

 



ロボット業界に欠けている「インフラ整備」役
Hondaでの知見を活かし起業を決意

やりたいと思っていたことは、ロボットと人が心地よく暮らせるエコシステムを作ること
ロボットにはインフラが必要で、どんなロボットも、そこにただ置くだけでは使えないんですね。例えば車がいい例で、道路や信号機があって、交通ルールや法律があって、ドライバーの運転免許があって初めて成り立つもの。ロボットは置いたらすぐに動くと思われがちですが、そんなことはありません。キャリアのネットワークがない携帯電話がタダのガラクタなのと同じく、ロボットも、それを動かすのに必要なインフラと社会的ルールが伴わなくては、本来の価値を発揮できません。そのためには、ロボットと人が動きやすい幅の道を作るというような環境そのもののデザインや、ロボットとの共存を前提とした働き方・社会の仕組みを設計する必要がありますが、それらは技術屋さんやエンジニアの領域ではないために、誰も手を付けない。インフラの領域は、誰が責任を持つべきなのか明確な線引きがされていないんです。
いいロボットがあっても、使えなければ意味がない。一方、ロボットの技術革新はどんどん進んでいるのに、社会的なインフラ整備は全然進まない状況です。ロボット技術と、既存のインフラの上に暮らす私たちの認識との間に膨大なギャップがあり、結果的に「このロボット何のために作っているんだっけ?」となる。ギャップを埋めて橋渡しする役がいないので、作ったはいいが使い道がない、という問題が散見されます。
ロボット関連企業の方と話すと、みなさん同じ課題を抱えていました。ならば、Hondaでやっていた橋渡しの知見を生かして役立てるのではないかと思い、起業をしようと決めました。

 


やりたいことは明確だが事業化に腐心

起業に踏み切ったのは2016年頃。ロボット関連のデザインコンサルタンシーで起業すると決め会社を辞めましたが、やりたいことは明確なものの、技術者とインフラの橋渡しの役割を具体的にどう事業化するかという点で苦労しました。多くの人が気付いていないニーズをどう説明して、誰からどんな名目で対価をいただくのか。この点については今も手探りしながら進んでいます。

 



中学生で「将来は起業家になりたい」

起業自体は、中学生の時から頭の中にうっすらと選択肢としてありました。当時、「電子立国 日本の自叙伝」というNHKのドキュメンタリー番組で、今でいうシリコンバレーが描かれていて、その頃AppleやMicrosoftが台頭し、アメリカの自由で先進的な働き方に感銘を受けたんです。その時に「スティーブ・ジョブズになりたい」と思い、進路相談で先生に将来何になりたいの?と聞かれ、「起業家」と答えたことを覚えています。いつか自分で事業を起こしてシリコンバレーのような働き方ができればと漠然と考えていました。

 


起業に際し最初の壁は
第三者にやりたいことを説明できないこと

最初の壁は、人に説明できない、やりたいことをうまく伝えられないことでした。
自分でもビジネスモデルがはっきりしていないと自覚していたので、その状態で投資家のところにもいけない上、一緒にやろうよと仲間を誘うこともできない。第三者に事業の説明をすることができない不甲斐なさがありました。

 



壁を越えるのに役立ったのは、アクセラレータープログラム
起業で一番大事なことをたたきこまれた

会社を辞めてすぐ、自分が応募できそうなアクセラレータープログラムをひたすら探し、MITがやっていた、アーリーステージの人向けのブートキンプに参加しました。そこが考えを大きく変えるきっかけになりました。
プロダクトやサービスを考える以前に、「そもそも潜在顧客は何を求めているんだ?」ということを調べ尽くしたのか。足で稼いで生の声を聞きに行くことの大事さ、そしてそこに対しては努力を惜しまないことを実地で学びました。
答えが見えている訳ではないことをさらけ出し、「こういうことが課題だと思ってるんです」といろいろな人に伝えて、フィードバックをもらい、一歩一歩形にしていくことは、起業をする、事業を形作る上で、考え方の大きなスイッチになり、姿勢が変わりました。今一緒にパートナー的に働いているメンバーにこのプログラムで出会えたことも大きかったです。

 

スタハを都内のサテライト事務所的に利用
夜10時まで無料で利用できるのは貴重

スタハを知ったのは、「創業・ベンチャー支援センター埼玉」の職員の方からでした。たまたま家から近く、起業した当初はそこでオフィスを借りていたんです。すごくよくしてもらっていましたが、東京で商談する機会が多くなってきた時に、「こんな施設あるんだけど知ってる? 丸の内にいいのができたよ」と教えてもらったのがスタハでした。そんなおしゃれなところ、高いのでは?と思ったら無料で。なんて素晴らしい環境なんだろうと。起業に向けた期間、よく利用し役に立ちました。
スタハを利用していたのは多い時は週2回くらい。都内のサテライト事務所的に利用していました。クリエイティブかつクローズドな環境は、取引先にも安心感が高かったです。
ホワイトボードに付箋を貼りながら打ち合わせをしたり、行き詰まったときは書棚の本を見たり。ドロップインで無料の施設はなかなかないですし、スタハはとても雰囲気がいいんです。作業をしていると、周囲から聞こえてくる相談内容に「みんな悩んでいるんだな」と少し励まされることもありました。みんな起業に向けてもがいているんだなと思うと心強かったです。平日は夜10時まで開いているのも貴重でした。

 


「使えると思ったロボットに出会ったことありますか?」
作る側と使う側にある大きな溝

現在の事業の主力は、ロボット関連のコンサルタント、デザインコンサルタンシーです。
新しいロボットを作ろうとしている企業から、誰にどう使ってもらったら事業化できるか、どんなサービスデザインが必要か?といったお話を多くいただいています。ロボット開発企業だけでなく、こんな未来を実現できそうなロボットとのカタチを考えたいという、ロボットとは一見関係の無い業種からの依頼もあります。どの場合も、ロボットを使いたいんだけど、どうしたら実際の現場で生かせるのか、そのシナリオが描けない、という悩みにお応えしています。
ロボット作りはソフトウエアと違い、製造に多くの材料と時間がかかり、ビジネスにしたいと思ってから作るのでは間に合わないんですね。できた時には世の中のニーズが変わっていることも。そんな事情もあり、開発する時には、今ある技術を生かせそうな将来のシーンを頭の中で想像しながら作っているケースが多いんです。
ロボット制作者は、「こんなに考えて作ったんだから、使ってもらって当たり前」と思っているふしがあり、「誰が何のためにどう使うか」検証するという、すごく基本的なことが抜けている。ロボットは大企業の研究部門が関わり、研究部門は日々お客様とやりとりする部門とは切り離されている場合が多いので、強い思い込みで作っちゃう。使えると思ったロボットに出会ったことありますか? 正直、あまりないですよね? それが現状なんです。そこを変えたい。
ロボットをデザインするのではなく、ロボットと人との暮らしをデザインする。ロボットはその媒介にすぎない存在にならないと、いらないものになってしまうので。

 


技術の粋を集めたロボットを日常生活で役立つ存在に

ロボットには、技術者たちが「人の役に立ちたい」とピュアな気持ちで作った技術の粋が結集されているのに、それが世の中に理解されないことがもどかしい。そこを何とかしたい気持ちが人一倍あります。
今後は、ロボットと共存する環境・社会づくりという知見を、専門家以外の人にも気軽に利用してもらうことができるようなサービスに転換して、ロボットが日常で役立つシーンを増やしていきたいです。
ロボットに出会った人が、今まで敷居が高いと思っていたロボットの価値観が変わるような、実は同じ生活空間で暮らせる存在なんじゃない?と思ってもらえるようになることを目指しています。

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