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【イベントレポート】 「社内」「兼業」「退職」の事例から考える自分に合った起業のカタチ -スタハ Meetup 1st Anniversary! ~起業の選択肢~

東京都が起業・創業を目指す方を支援する施設として開設された「Startup Hub Tokyo」は、2018年1月26日にオープンから1周年を迎えました。1月31日に開催された記念イベント「スタハ Meetup 1st Anniversary! ~起業の選択肢~」では、さまざまなスタイルで「起業」を経験された3名の起業家によるトークセッションに加え、Startup Hub Tokyoメンバーによるライトニングトーク、懇親会などさまざまな催しが行われました。

Startup Hub Tokyoのゼネラルマネージャーである鈴木英樹より「多くのみなさんにご利用頂いたことに感謝致します。2年目も、利用者数を拡大していくことはもちろんですが、これまで以上にメンバーのみなさんの交流を広げられるような活動、イベントを数多く企画していきたいと考えております。引き続きよろしくお願い致します」と開会の挨拶がありました。

なぜ「起業」を目指したのか-スタイルは三者三様

トークセッションは「起業の選択肢」と題し、それぞれに異なった経緯や背景で起業されている3人の起業家の方をお招きし、お話しを伺いました。

・荒井智子氏(株式会社ガイアックス tiny peace kitchen事業部長)

・井上憲氏(ジョージ・アンド・ショーン合同会社代表 日本オラクル株式会社 マネージャー)

・早川慶朗氏(株式会社アンデコ 代表取締役社長)

荒井氏は現在、ソーシャルメディアやシェアリングエコノミーを軸に事業を展開しているIT企業、ガイアックスの社員であると同時に、社内ベンチャーとして立ち上げた家庭料理カフェ&ケータリングサービス「tiny peace kitchen」(http://tinypeace.jp/)の代表者でもあります。つまり、勤めている会社の事業として起業した「社内起業家」です。

荒井氏は入社2年目の2015年、「tiny peace kitchen」の前身となるケータリング型の社員食堂「まいにち食堂」を社内ベンチャーとして立ち上げます。IT企業とは関連が薄い「食」に関する事業に関心を持ったとき、一度は会社を辞めて起業することも考えたそうですが、上司からの「イノベーションは辺境から生まれる」という言葉に共感し、社内での起業を決意します。

「会社を辞めて起業すれば、飲食業界の中心に身を置いてやっていくことになる。でも、食の世界から見れば辺境にあるIT業界の中だからこそ、見える課題もあるのではないかという考え方に強く共感しました」(荒井氏)

「やさしさが連鎖する経済圏を作る」を基本理念として2017年に開店した「tiny peace kitchen」は、現在11名 のスタッフによって運営されています。店舗は1日約140名の利用者で賑わい、毎日多様なケータリングにも対応しています。

井上氏は、外資系IT企業である日本オラクルの社員として勤務しながら、自らスタートアップとして「ジョージ・アンド・ショーン合同会社」を立ち上げた「兼業起業家」です。自らの会社であるジョージ・アンド・ショーンでは、スマートフォンアプリとIoTデバイスを組み合わせた高齢者の見守りサービス「biblle」(https://www.biblle.net/)を展開しています。

井上氏が、見守りサービスを行う会社を起業したきっかけは、家族が初期の認知症により何度も行方不明になってしまった自身の経験だったそうです。認知症による行方不明者を発見するためのサービスにはGPSを利用したものもありますが、サイズが大きいため常に身につけておくのが難しかったり、ついつい充電を忘れてしまったりといった課題もあるといいます。

「biblle」で利用するタグ(デバイス)は、約9グラムという軽量で、ボタン電池により約半年間駆動し続ける、使い勝手を強く意識したものです。通信にはBluetoothの技術を利用し、biblleアプリをインストールした地域の人々が持つスマートフォンとの「すれ違い通信」で所有者の場所を把握できるようになっています。この仕組みが有効に機能するためには、地域に住むできる限り多くの人がbiblleアプリをインストールしておく必要がありますが、その輪は次第に広がっているといいます。

「初期の認知症を患う人は、体力的には元気なことが多いのですが、自分がまれに迷子になってしまうことを理解しているため、家族や周囲の人々に迷惑をかけたくないという思いから外出も控えがちになってしまいます。こういう状況を、地域の人たちの支援で変えることができないかというのが、biblleをはじめたきっかけでした」(井上氏)

ジョージ・アンド・ショーンは、井上氏と同じ「兼業」のメンバーで構成されており、終業後の時間を自分たちの事業のために活用しているそうです。日本オラクルでは、IoTやクラウドに関わる事業開発に携わってきた井上氏ですが、兼業を始めてからは「会社と自分がお互いに良い意味で利用し合う関係」にあるといいます。

早川氏は、勤めていた会社を辞めて起業した「退職起業家」です。約7年の会社員経験を経て、2014年に創業した「Andeco」では、ポップアップストア(移動販売店舗)の領域を対象としたサービス開発、設計事務所業務、事業開発系のコンサルティング業務を展開しています。

会社員時代には、会社の補助を得て大学院の博士課程を修了。退職後に、並行して練っていた事業のアイデアを元に起業した早川氏は、その間に子どもが2人め産まれると言ったライフイベントも経験しました。事業開発のコンサルティングも行っている立場から「どういった形式、どういった領域での起業を目指しているかで、起業にまつわるリスクマネジメントの戦略も変わってくる」と聴衆にアドバイスしました。

「どんな事業を展開するかによって、兼業か、独立か、資本はどのように集め、会社をどう作っていけばいいのかの戦略は違ってきます。このあたりの戦略を迷っておられるようでしたら、ぜひ聞いて頂ければと思います」(早川氏)

起業した後の「会社との関係」「時間やお金の使い方」は?

ここからは「社内起業」「兼業起業」「退職起業」を経験した3人のパネリストに、モデレーターを加えた4人でのパネルディスカッションが展開されました。モデレーターは、一般社団法人Work Design Labの代表理事である石川貴志氏です。

石川氏は、大手出版流通企業に会社員として勤務しつつ、一般社団法人の代表理事、NPOや社会起業家に対して投資協働を行うソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京)のパートナー、ひろしま産業振興機構の創業パートナーなどとしても精力的に活動する「複業家」です。そんな石川氏のビジョンは「生き生きと働く大人であふれ、そんな大人を見た子どもたちが未来に夢を描ける社会を創る」ことだといいます。

石川氏が挙げた最初のテーマは「会社との関係性」について。最近、外資系をはじめとして、日本企業でも社員の副業や兼業を認めるところが少しずつ増えています。しかし、実際に起業するとなると、そのことが会社側にどのように受け取られるかは気になるところです。

兼業起業家の井上氏が勤務する日本オラクルは、外資系IT企業の日本法人ということもあり、自分の責任範囲でできることであれば兼業も問題ないという企業文化があるそうです。規定上も、個人の事業はコアタイム以外で行い、会社と利益相反にならなければ問題ないという解釈がされているとのこと。

ただ、起業にあたっては「社員が新しい働き方にチャレンジすることを応援している会社」であることが社会に与えるイメージなどをアピールしつつ「兼業を認めることも、会社として悪くない」という雰囲気を作っていくことをある程度意識したといいます。

また、一緒に働いている同僚や上司といった周囲の人に、兼業を悪いイメージで捉えられないよう「業務については『兼業しているから、こんなものなのではないか』と言われないレベルでパフォーマンスを出せるよう意識している」といいます。また、会社側にも兼業のメリットを感じてもらえるよう、自分の事業の中で得られた成果について、何らかの形で会社側に還元できる部分については、積極的にそうすることを心がけているそうです。

「自分としては、会社での業務と自分の事業について『半々』というよりも『10対10』の割合でパフォーマンスが出せるよう取り組んでいるつもりです。その中で、家族と過ごす時間も確保していくために、時間の使い方をどれだけ効率化できるかは、常に意識するようになりました」(石川氏)

兼業の場合に限らず、個人が起業するにあたっては、限られた「時間」や「お金」といったリソースにまつわるリスクを、どのようにバランス良くマネジメントしていくかが課題となります。会社を辞めての起業を経験した早川氏は、特に金銭面について「バランスをとるのは難しい」と話します。

「始めたい事業の内容によって、当面どれだけのお金が必要になるかが変わってくるので、資金面でのリスクコントロールのしやすさは資本政策で変わることになります。特に元手がかかる開発先行型のビジネスモデルの場合は借入なども発生するので、あらかじめきちんと考えておくべきですね」(早川氏)

どんなタイプの起業でも重要な共に働く「仲間」の集め方

石川氏からの質問は、事業を始める際の「仲間の集め方」に関するものに移っていきました。当初「たまたま同じ時期に会社を辞めた人と2人で創業した」という早川氏は「仲間選びは重要。一緒に事業をやっていく仲間は、時間をかけて仕事をしながら決めていくべきだと思います」と自らの経験を振り返りつつコメントしました。

一方、井上氏のジョージ・アンド・ショーンのメンバーは、日本オラクルの他の社員に加えて、大学時代の後輩やサークルのつながりなどで集まった他企業の社員などから構成されています。どのメンバーも井上氏と同じく兼業の立場で関わっているため「給料がどれくらいもらえるかよりも、ソーシャルベンチャーとしての社会貢献的な側面で関心を持って集まってくれている」そうです。

「事業では、それぞれのメンバーがこれまで積んできた経験をベースに役割分担をして補い合っています。マインドとして、自分たちがやっている事業に強い関心を持ち、同じようなテンションで盛り上げてくれる人を集めていますね。エンジニアについては、それに加え、事業の中で扱っている技術にも関心を持ってくれている側面があると思います。単に『仲が良い』という理由だけで事業の仲間を募るのは難しいのではないでしょうか」(井上氏)

荒井氏は、これまで「社員食堂」として展開していたケータリングを、カフェの店舗も加えた形で本格的に事業展開することを決めた際、過去に「自分にとってのターニングポイント」になった人に会いに行き、そのなかで創業のパートナーとなる人を見つけたといいます。

「彼女は、学生時代のアルバイト先で一番お世話になった店長なのですが、実際に会って話す中で、彼女が当時やりたいと思っていたことと、自分がこれからやっていきたいことが多くの部分でリンクしていることがわかり、一緒にやっていこうと話をはじめました」(荒井氏)

しかし、具体的な話が進み始めたところで荒井氏の妊娠が判明します。出産を控えて、これからはじめる事業にすべてのリソースを注ぐことが難しい状態となりましたが、パートナーも理解を示してくれ、一緒に開業に向けての準備を進めてくれたといいます。

「彼女にも子どもがいて、私も出産を控えた中で、2人3脚ならぬ『2人で1人前』の仕事ができるよう、互いに情報を共有しつつ開業の準備を進めていきました」(荒井氏)

そのほかのメンバーについては、ビジネスSNSに新たな事業のビジョンとコンセプトを掲載し、共感してくれた人との面接を通じて決めていったほか、大学時代のつながりなどを通じて集めたといいます。

パネルディスカッションの最後には、個別のパネリストへの質問を受け付ける時間が設けられました。「会社を辞めて起業した後で『会社員のうちにやっておけばよかった』と思っていることはありますか」という質問に対し、早川氏は「住宅ローンを組むこと」「社外の人と多くネットワークを作っておくこと」に加えて「副業」と回答しました。

「会社経営は、自動車の運転と同じで『身体で覚える』ことが大事です。車でも、最初は小さな車で近くに出かけることから始めて、すこしずつ上達していきますよね。会社員時代から何らかの形で副業を始めていると、資金繰りのコツなどを身体が覚えていきます。会社を辞める前に副業をしておくのはおすすめです」(早川氏)

「ライトニングトーク」と懇親会で深まったメンバー同士のつながり

パネルディスカッションに続いて行われたのは、主にStartup Hub Tokyoの登録メンバーによるライトニングトークです。5人の登壇者が、それぞれ5分間の持ち時間の中で、自身が計画している、あるいは既に展開している事業についての紹介を行いました。

・企業の持続可能な発展のために知ってほしい「ISO26000」(登壇者:高田欣幸氏)…ISOによって標準化されている、企業の「社会的責任」に関するガイダンスであるISO26000のビジネス活用について

・テニスマッチングサービス「TennisBear」(登壇者:増原裕之氏、江嵜慶氏)…テニスコートの運営者とテニスプレイヤーとのマッチングサービスについて

・笑顔で働く保育士、笑顔で子育てと仕事を両立するママを増やすための起業(登壇者:With Love 川田一枝氏)…人手不足、高退職率、低給与といった悪条件の中で人材育成もままならない「保育士」の労働環境改善を目指し、保育士経験のある登壇者が展開するコーチングやコンサルティング、ノウハウ継承に関する事業について

・「伝わるコツ」スキルノート事業(登壇者:芦沢壮一氏)…金融機関の会社員として勤務しながら、副業として人材育成の講師を行っている登壇者が展開している、セミナーや講座などを通じ「働き方の多様性」と「伝わる技術」を社会に広めるプロジェクトについて

・ものづくり系スタートアップ支援事業「IGNICTION」(登壇者:Hamee株式会社 佐藤弘章氏)…スマートフォンアクセサリーを手がけるHameeが展開する「ものづくり系」スタートアップに向けた、プロダクトの量産、セールス、マーケティングに関するノウハウ支援のプロジェクトについて

ライトニングトーク後には、イベントの全参加者による懇親会が行われました。会場では、今回のトークセッションにご参加頂いた荒井氏の「tiny peace kitchen」によるフードケータリングも実施。Startup Hub Tokyoのロゴがデコレーションされた1周年記念ケーキも登場し、起業家たちの交流に花を添えていました。

・ゲスト

荒井智子/株式会社ガイアックス tiny peace kitchen 事業部長

1987年生まれ。東京大学大学院にてサステイナビリティ学の修士号を取得後、2013年に株式会社ガイアックス入社。2015年、社内ベンチャーとしてケータリング型社員食堂をスタート。「やさしさが連鎖する経済圏をつくる」ことをミッションとした、家庭料理カフェ「tiny peace kitchen」を2017年にオープン。

井上憲/ジョージ・アンド・ショーン合同会社代表 日本オラクル株式会社 マネージャー

1980年生まれ。2006年に日本オラクルに新卒入社後、現在までIoT製品/クラウド製品の事業開発を歴任。一方で自身の家族の迷子をきっかけに2016年3月に東京工業大学院時代の学友と、ジョージ・アンド・ショーン合同会社を兼業事業として設立。見守りを目的としたIoT製品である「biblle(ビブル)」の展開のほか、各地方自治体との見守りプロジェクト実施のために、国内外含めて奔走している。

早川慶朗/株式会社アンデコ 代表取締役社長

建築分野の大学を卒業後、NTTグループ会社に就職。建築設計業務2年、事業開発4年、技術営業1年の計7年間の会社員を経て独立し、株式会社Andecoを2014年7月に創業。 ポップアップストア・移動販売の領域を対象にサービス開発を行いつつ、設計事務所業務、事業開発系のコンサル業務を展開中。スタートアップ的な領域と、スモールビジネス的な領域の双方を経験しながら、現在創業4年目に突入中。

・モデレーター

石川貴志/一般社団法人Work Design Lab代表理事/複業家

リクルートエージェント(現リクルートキャリア)事業開発部門のマネージャーを経て、大手出版流通企業にて勤務。本業の傍ら2012年よりNPOや社会起業家に対して投資協働を行うSVP東京のパートナーとして活動。現在は「働き方をリデザインする」をテーマにした対話イベントや、イントレプレナーコミュニティを運営するWork Design Lab代表やひろしま産業振興機構の創業サポーター等も務める。1978年生まれ、3児の父。

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