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【イベントレポート】どんな社会でも生きていく力をつけるために起業を選んだ。社会起業家ケアプロ代表取締役 川添高志

起業を支援する「Startup Hub Tokyo」では、定期的に起業に役立つセミナーやイベントを開催しています。

「社会起業家シリーズ」では、NPO法人ポレポレ代表の高橋邦之さんがコーディネーターを務め、想いを持って社会の変革を目指す社会起業家(Changemaker)をゲストに迎えて開催しています。

4月26日に開催された第4回目のゲストは、国の医療制度を変え「3000万人」の健診弱者を救う変革者、ケアプロ株式会社代表取締役の川添高志さん。ケアプロが生み出した「ワンコイン健診」にかける想いや、これまでの歩みについて伺いました。

父のリストラが原因で起業を決意

川添さんが起業を志すきっかけは、高校時代にまでさかのぼります。当時、父の背中を追いながら、漠然と、いい大学を出て大企業に務める安定した道をイメージしていた川添さん。しかし、父親が突然のリストラにあったことによって、考えが変わります。

「父が突然リストラになった影響で、自分の将来についても真剣に考え始めました。これから先、どんな社会になったとしても、自分でビジネスを作り出せる力を身に付けたい。そこで、会社に勤めるのではなく、起業を通じてビジネスを作り出せるスキルを養っていきたいと考えるようになりました」

しかし、この時点では川添さんも「何で起業するのか」は定まっていませんでした。川添さん自身、子供の頃から体が弱く、入退院を繰り返していた時期があり、医療にはもともと興味を持っていたそうです。

「子供ながらに、なぜ病気や障害を持つ人はかわいそうだ、と周囲から見られるのか不思議に思っていました。人は生まれるとき誕生を祝われる存在。しかし、医学が介入した途端、病気や障害は治す対象とみなされこともあり、周囲は心配の眼差しを向けることもあります。そういった、心配の眼差しを向ける医学に違和感を感じていました。そこで自分は、医学ではなく健康そのものをサポートしていく側にまわりたいと考え始めました」

健康そのものをサポートしていきたいと考えるようになった川添さんが可能性を感じたのは、「看護」でした。看護は、できる限り質の高い健康的な暮らしができるよう、身の回りの生活からサポートしていきます。障害があって通常の生活が困難な患者に対しても、治療するのではなくその人の自然治癒力を高めるのが看護の仕事です。

事業のヒントとなる、米国で見た簡易的な健康診断「ミニッツ・クリニック」

看護を軸に、医療ビジネスで起業したいと思った川添さんは、当時、新しく設立されたばかりの慶應義塾大学看護医療学部に進学します。

川添さんは大学に通いつつ、医療業界にはどのような問題があり、どこにビジネスチャンスがあるかを常に考えていました。なかでも注目したのが、生活習慣病だったといいます。

「当時、生活習慣病の治療には、多額の医療費がかかっていました。生活習慣病は、日頃の食生活の見直しや、定期的な健康診断によって、予防できるはずのもの。健康診断が義務付けられている会社員の方はいいですが、自営業者や、子育て中の主婦の方などは、自発的に健康診断に行く人はあまり多くありません。ここに大きなビジネスチャンスがあると考えました」

健康診断の課題に着目した川添さんは大学3年生のとき、研修の一貫として訪れたアメリカで目にした、簡易的な健康診断サービス「ミニッツ・クリニック」に可能性を感じます。

「ミニッツ・クリニック」とは、医療行為もできる看護師資格を持つ人が、安価で、最低限の診断や治療を行うサービス。日本と異なり医療費が高額なアメリカでは、病院に行くハードルが上がります。そこで「ミニッツ・クリニック」のような、病院へ行かずとも診察を受けられるサービスがユーザーのニーズを満たしているのです。

「日本にも、お金がかかる、時間がないなどの理由で健康診断に行けない人がいる。だからこそ、このサービスは日本でも導入できるのではないかと考えようになりました」

顧客の働きかけが大きな力に

大学卒業後、まずは経営のスキルを見つけたいと考えた川添さんは、経営コンサルティング会社で1年間経営を学びます。その後、医療の現場を間近で見るために東京大学病院に看護師として就職。健康診断へ定期的に行っていれば未然に防ぐことができたであろう生活習慣病患者へ、健康診断を受けなかった理由を丁寧にヒアリングしていきました。その結果、予防医療システムを開発する必要性を再認識します。

「糖尿病患者の方に話を聞くなかで『子供がいるため健康診断に行けなかった』や『仕事が忙しくで時間がとれない』、『お金がかかる』といった、時間とお金がハードルになっていることが明らかになりました。当時、立ち食いそばや、10分1000円カットなどが流行りはじめていた時期でもあり、時間を使わず手軽にサービスを提供するビジネスがこれからは求められるとも感じていました。そこで、時間とお金、両方の課題を打開する策として考えたのが、1項目500円で受けられる『ワンコイン健診』でした」

『ワンコイン健診』のアイデアを思いついた川添さんはアイデアを実現するため、ビジネスモデルを考え始めます。医師を雇い診療所を構えると、1項目500円という価格ではサービスを提供できません。その打開策となったのが自己採血という方法でした。厚生労働省に確認すると、徹底した自己採血、かつ病名の診断をしなければ、事業として展開することが可能ということも判明。アメリカで実際に見たサービスもヒントとなり、簡易的な健康診断が日本でも実現できる可能性が出てきました。

そこから2007年にケアプロを創業。フリーターや自営業の割合が多い中野区に1号店をオープンしました。

とはいえ、最初からうまくいったわけではありません。事情を知らない保健所職員から「医者を雇わないと警察に摘発しますよ」と言われ、店舗撤退を言い渡されたこともあったといいます。そのときは、ワンコイン健診を通じて糖尿病を発見し、ケアプロに命を救われたという患者さんが、保健所の職員に必要性を訴えかけてくれたといいます。そんな顧客の姿も原動力となり、なんとか今まで事業を続けていくことができたと、川添さんは当時を振り返って話します。

「新しいことは、ときに世間から反発を受けることもあります。既存業界はもちろん、家族や友人からさえ反対されることがあるでしょう。ただ反対されたときに大事なのは、相手を尊重しつつ、仲間になってもらえるよう働きかけてみること。相手の言い分は受け止めつつも、自分の目指すところとうまくバランスがとれれば、次は応援してもらえるようになる。応援してくれる人を増やすことは起業において、とても重要だと思います」

ビジネスを軸に、革新的なヘルスケアサービスをプロデュース

さまざまな向かい風に耐えながら、企業として成長してきたケアプロ。「ワンコイン健診」の利用者は、今では41万人を超えます。今後は、さらに利用者の負担額を減らすため、BtoCだけでなくBtoBにも力を入れていきます。

「店舗を拡大させるとなると固定費が増すため、もっと安く受けたいという全国の健診弱者のニーズに応えていくのはむずかしくなります。そこで、ショッピングセンター、パチンコ店、温浴施設などを通して健診サービスを提供する、イベント型のビジネスモデルを展開しはじめています。ケアプロと顧客の間に、企業が入ることで、安価に健康チェックを提供でき、企業側も集客に活かすことができます」

さらに、今後のビジョンとして「医療・福祉界のジャニーズ事務所を目指す」と話す川添さん。

「『ケア』と『プロ(プロデュース)』で革新的なヘルスケアサービスをプロデュースする会社、それがケアプロのミッションです。」

川添さんは、医療と経営分野で学んだ経験を活かし、革新的なヘルスケアサービスを世に出そうと模索する起業家を発掘しながら、医療業界を盛り上げたいと語りました。

起業において、大切な3つのこと

大学、就職と、医療ビジネスで起業するために戦略的に歩みを進めてきた川添さん。今までの起業家人生を振り返ってみると、起業において大切なことは、3つあるといいます。

1つ目は、起業から逆算して、戦略的に歩みを進めるということ。学生の頃サッカー部の友達に「おれ将来、社長になるから社長って呼んでくれよ」といったことがきっかけで、あだ名が「社長」になったという川添さん。社長と呼ばれることで、将来社長になるという意識が植えつけられたと言います。大学、就職と、今の起業につながる道を戦略的に歩んでいます。

2つ目が、明確な目標を立てること。起業するにあたって「まずは、起業資金の1,000万円を貯めよう」と決めた川添さん。当時、株式会社を設立するためには1,000万円が必要でした。1,000万円という明確な目標に対し、生活を切り詰めながら貯めていったそうです。

3つ目が、人脈。人脈は大切とよくいわれますが、川添さん自身、学生の頃はその意味が理解できませんでした。しかし、いざ起業の準備をはじめると、1人だけでは、手が回らない部分が出てきます。そこで手伝ってくれたのが、大学時代に同じ看護学部に所属していた友人でした。昔の友人も立派な人脈。起業にあたり改めて人脈の大切さを感じたそうです。

1人1人が健康を意識するための教育

イベントの後半、参加者から「国民が健康を意識するためには、健康意識を受け付けるような教育が必要なのか」という質問が挙がりました。この質問に対し川添さんは、評価基準を明確にする必要があるといいます。

「健康診断を受けに来てくださる方には、あなたが健康を意識することによって、『医療業界全体としても助かってますよ』という姿勢で接しています。

健康を意識することは病気を未然に防ぎ、医療費を減らすことにつながる。その分、社会保障費がしっかりと使える社会になっていくと考えています。健康を意識してもらう方法としては、保険料が下がったり、税金が下がったりといったインセンティブの仕組みも必要だと思います。

インセンティブを運用するためにも、明確な評価基準を作らなければなりません。これだけ健康になれば、これだけ保険料が下がるといった具合です」

高校生という若い時期から起業を志し、現在は医療業界に限らず社会全体へと目を向ける川添さん。淡々と話すその口調からは、手の届かない夢を語るのではなく、実現すべき目標として捉え、着実に歩みを進めてきたことが伺い知れます。明確な目標を立て、あとは淡々と歩みを進める。起業において、必要な要素かもしれません。

Startup Hub Tokyoでは、起業を検討している方向けに知識やノウハウを提供するイベントを開催しています。起業を検討している方は、ぜひ足を運んでみてください。

ゲストプロフィール

川添高志ケアプロ株式会社代表取締役

1982年兵庫県生まれ、横浜市育ち。

2005年慶應義塾大学看護医療学部卒業。経営コンサルティング会社勤務、東京大学医学部附属病院での看護師としての勤務を経て、2007年にケアプロ株式会社を設立。日経ビジネス「次代を創る100人」やアショカ・フェロー、世界ダボス会議グローバルシェイパーズなどに選出。

執筆:吉田祐基(inquire)

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