MAGAZINE

【イベントレポート】発達障害のある子どもが伸び伸びと成長できる環境を。NPO法人発達わんぱく会代表 小田知宏

起業を支援する「Startup Hub Tokyo」では、定期的に起業に役立つセミナーやイベントを開催しています。

「社会起業家シリーズ」では、NPO法人ポレポレ代表の高橋邦之さんがコーディネーターを務め、想いを持って社会の変革を目指す社会起業家(Changemaker)をゲストに迎えて開催しています。

6月28日に開催された第6回目のゲストは、発達障害またはその疑いのある子どもを対象に児童発達支援事業を行うNPO法人発達わんぱく会代表の小田知宏さん。療育に携わるようになったきっかけや、これまでの歩みについて伺いました。

療育の機会を増やしていくことが社会的な使命

小田さんが代表を務めるNPO法人発達わんぱく会では、幼児期という早期の段階でマンツーマンの「療育」を実施する「こころとことばの教室 こっこ」の運営や、療育施設への運営支援、発達障害児を持つ親への子育て支援を行っています。

療育とは、発達障害のある子どもが社会的な自立を果たすことができるように、治療と教育を施すこと。幼い時期から適切な治療と教育を施すことによって、周囲の環境に適応できないことによる心的なストレスや不安を軽減し、伸び伸びと成長できる状態をサポートします。

「発達わんぱく会では、幼少期という早い段階から療育を行う『早期療育』の機会を増やすことを社会的な使命として定めています。現在、発達障害を抱える子どもの数は全体の6.5%にのぼる(※1)と言われる一方、義務教育での療育は不足しています。私たちは特に療育が充実していない地域で、療育を行い発達障害のある子どもが伸び伸びと成長できる環境を提供したいと考えています」

歴史に名を残す偉人の中にも発達障害だったと言われる人が数多く存在したと言われています。「興味の湧いたことや新しいアイデアはすぐに実行したい」、「正しいと思い込んだら他人の反対が気にならない」など、一見すると起業において必要な要素を兼ね備えた人の中には、発達障害の傾向を持つ人は多いといいます。

小田さんによると、Appleの創業者スティーブ・ジョブズや、明治維新に強い影響を与えた坂本龍馬なども、発達障害を持っていたと言われているそうです。

しかし、他の人にはない才能があるにも関わらず、苦手な部分をクローズアップする義務教育の中で、才能の芽を潰してしまう人もいる。小田さんはこの現状を危惧しています。

「発達わんぱく会での取り組みを通じて自らの才能に気付き、自立した社会生活を送れる子どもを増やしたい。そのために、早期療育の機会を増やしていきたいと考えています」

子どもの頃から社長になりたいと考え歩んだ、これまでの道

小田さんが現在の障害者支援の分野で起業を志したのは、なんと子供の頃だったといいます。

「私の子供の頃の夢は、社長になることだったんです。最初に社長を意識したのは、釣りバカ日誌の『スーさん』こと鈴木建設の社長・鈴木一之助さんを見たとき。そこで社長という職業を知ると共に、漠然と社長になりたいと思っていました。また私は幼少期から心身障がい者である叔母と一緒に暮らしていました。自分にとって障がい者は特別な人ではなく、身近にいる困っている人。単純に手助けをしたいという思いは幼い頃から抱いていました。そこで社長になるなら、漠然と障害者の支援を行う事業をしたいと考えていたんです」

しかし、大学を卒業するタイミングでは、まだ起業する力がないと感じ、最初はサラリーマンになることを選択。最初は商社に就職したものの、当時急成長していた介護事業に関心を抱き、介護事業を展開する会社へと転職。転職先の会社では、発達障害のある子どもの療育や預かりを行う施設の運営に約2年携わりました。しかし、その運営は失敗だったと小田さんは振り返ります。

「運営していた施設では、制度上、療育と預かりの両方のニーズを満たすことを目的としていました。ただ、療育と預かりを両立させるのはとても難しい。ふたを開けてみると、子どもを長時間預かることを目的とする施設になってしまい、必要と考えていた療育にまったく時間を割くことができませんでした。通常の保育施設となんら変わらなかったんです」

子どもを預かるとなると、遊びや食事、動き回る子どもの世話など、安全に預かるために割くべき時間が大半を占めることになります。特に発達障害を持つ子どもの場合、基本的な生活の部分で苦手を感じることも多く、その分、預かる際にかかる労力は大きくなります。

こういった現状を体感した小田さんは、学童保育のように預かりが主目的となる施設ではなく、療育を主目的とする発達障害児のための新たな学校のような施設を作ることこそ、子どもの成長を本当の意味でサポートできるのではないかと考え始めます。

発達障害児の才能を間近で目にしたことが、現在の事業を後押し

2年間の経験は失敗に終わったと振り返る小田さん。しかし、失敗の中にも学びはありました。施設運営を通じて多くの発達障害のある児童の才能を自身の目で確認し、このときの経験が現在の事業を始める大きな後押しとなります。

「多くの才能を持つ発達障害の子どもに出会えた経験は、現在の事業を行う上で背中を押してくれました。例えば、本を読むのが人よりも速く、目で見た情報を一気に脳内で処理できる子がいました。彼は耳から入る言葉の理解が苦手なのですが、彼の才能にスポットを当ててあげられる環境があれば、彼はすごい天才になるかもしれない。才能の芽をつぶさないためにも、発達障害児の支援を行う事業を立ち上げたいと、強く感じました」

自身で療育に特化した事業をやると決意した小田さん。施設運営の後1年間、発達障害のある子どもを支援する施設で療育について学び、同時に起業に向けた準備を開始します。

そのなかで、NPO法人であれば利益だけでなく、社会課題を解決するという理念を追求することにも注力できると感じた小田さん。会社組織であれば、利益につながる自社のノウハウを外部に流出させることは難しいですが、NPO法人であればノウハウを外部に提供し、全国規模で早期療育の機会を増やすといった、理念の追求に集中できると考えていたそうです。

そして、2010年12月にNPO法人「発達わんぱく会」を設立。翌年の11年3月には「こころとことばの教室 こっこ東野校」を開校します。現在は「こころとことばの教室こっこ」の運営を軸に、親御さん向けの相談支援や、療育施設向けの運営支援などを通じて、多方面から発達障害に関する社会課題に向き合い続けています。

療育をシステム化することで目指す、発達障害児童全員の早期療育

イベントの後半、参加者から「早期教育を増やしていきたいとありましたが、具体的にどうやって増やしていこうと考えていますか?」と質問がありました。小田さんは、チームによる療育をシステム化することで、全国のNPOに伝承していきたいといいます。

「現在全国にいる発達障害のある児童のうち、早期療育を受けている子どもの割合は10%と言われています。私は残り90%の子どもを含めた全員が早期療育を受けられる社会を実現したい。具体的には、療育への直接的なアプローチより、療育者を育てることへの注力が必要だと考えています。

療育者1人を1人前に育てあげるには、時間がかかります。そこで考えたのがチームによる療育をシステム化すること。1人の力を総合的に伸ばすためには時間がかかるとしても、補完し合えるチームを作り、チーム内で自分の役割に応じた質の高い仕事をする。チーム療育の仕組みを構築し、発達障害児の支援を行う日本全国のNPOに伝承していきたいと考えています」

「すべての子どもが、発達障害を持って生まれても、自立したその人らしい大人になって、豊かな人生を送れる社会」を目指すNPO法人発達わんぱく会。全員が早期療育を受けられる社会を実現したいという思いは、理想ではなく、実現できる目標として語る小田さんの姿が印象的でした。

発達障害を抱える子どもの療育環境は、施設の少なさや、親の心的なハードル、周囲が気づかないなど、さまざまな課題を抱えています。小田さんは、さまざまな課題を1つ1つクリアにしながら、全国の療育環境を整備したいとおっしゃっていました。

Startup Hub Tokyoでは、起業を検討している方向けに知識やノウハウを提供するイベントを開催しています。起業を検討している方は、ぜひ足を運んでみてください。

※1 6.5%にのぼる http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/053/siryo/__icsFiles/afieldfile/2015/05/25/1358061_03_03.pdf

・ゲスト

小田 知宏
1973年生まれ。東京大学経済学部卒業後、株式会社丸紅を経て、株式会社コムスンに入社。関東支社長や障がい支援事業部長など、障害福祉に8年間携わる。廃業に伴い株式会社コムスンを退職し、スターティア株式会社に勤務、上場企業の執行役員社長室長としてビジネス経験を積む。その後、社会福祉士の資格を取得、スターティア株式会社を退職して2010年12月にNPO法人発達わんぱく会を設立。

執筆:吉田祐基(inquire)
カメラマン:田島 寛久

PAGE TOP