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【イベントレポート】ひとつぶ千円のいちごに学ぶ、稼げる農業起業

「ソーシャルベンチャー」シリーズでは、NPO法人ポレポレ代表の高橋邦之氏がコーディネーターを務め、想いを持って社会の変革を目指す社会起業家(Changemaker)をゲストにお迎えしています。2017年10月13日に開催された10回目のゲストは株式会社GRAの岩佐大輝氏です。

「地方でも、グローバルに戦えるなら成功できる」という仮説をもとに、経験や勘が重視されてきた農業に企業経営の考え方とITを導入し、ひとつぶ千円のイチゴを百貨店で販売するというハイマーケットブランディングに成功しました。同氏の著書『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』を読んだ高橋氏は、岩佐氏の経験と哲学がこれから起業を考えている人々に役立つことを確信したと冒頭で語りました。

ニートから一念発起、ポートフォリオ型起業家に成長して故郷救済に立ち上がる

岩佐氏は宮城県山元町に生まれ、10代後半まで地元で育ちました。ある出来事をきっかけに上京し、しばらく“パチプロ”や競馬予想ソフトの開発などで生計を立てていましたが、「このままではだめだ、何とかしてちゃんと社会に出なければ」と一念発起して22歳で大学に入り、在学中にIT企業を設立しました。その後、同氏は複数のIT系企業を経営するようになります。岩佐氏は自らについてこう語ります。

「私は“人生いつからでも何とかなる”という見本のような人間(笑)。起業家として成長していく中で、私は、ビジネスを次々渡っていく連続起業家ではなく、一度作った会社はつぶさずに会社を増やすポートフォリオ型起業家だと自覚するようになりました」

そのようにして順調にキャリアを重ねている中、2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。故郷である山元町も甚大な被害を受け、主たる産業であったいちご農業も、ハウスが95%倒壊と壊滅状態になりました。

岩佐氏は毎週、東京からボランティアとして復興作業を手伝いに現地へ赴いていたのですが、 ある日、被災した方からのひとことが心に響きました。

「君たちはビジネスをやっているのだから、このようなボランティアではなく雇用を作ってくれ。このままではいつまでたっても娘や息子が山元町に戻ってこれない」

そのとおりだと思った岩佐氏は、雇用創出の機会を生み出そうといちご農業を手がける農業生産法人 株式会社GRAを設立。2011年9月のことです。さっそく、灌漑のために井戸を掘り始めますが、すっかり塩水が浸透しており、6本掘って6本ともが使いものになりません。このときはさすがに「もうやめようか」という思いが頭をよぎったそうです。しかし、岩佐氏は思い直しました。

「人生には“ここでやらないといつやるの?”という瞬間があります。私にとってこの井戸掘りがそのときでした。みんなが仮設住宅に暮らして必死にもがいているときだから意味があるのであり、来年でいいやと先に延ばしたら、それが地元にどれだけのインパクトをもたらすか。なんとしてでも、今スタートしてやると決心しました」

“稼げる農業起業”実現に向けて、押さえておくべき重要なポイントとは?

岩佐氏が栽培作物としていちごを選んだのは、フルーツの中で最も食べやすく、加工用にも使えるなど用途が広く、日常使いができて、情緒的な感性に訴えかけられるかわいらしさがあったからでした。定量的にも、日本人の好きなフルーツ30年連続No.1を維持しており、世界的に見ても、いちご市場は1700億円規模とフルーツの中で最大だそうです。岩佐氏は「農業では、ビジネスのマーケットサイズとトレンドを考えることが非常に重要」と断言します。農業は投資回収までに10年程度かかるため、中長期のトレンドを見誤ると失敗してしまうからです。また、参入する作物のコスト構造を分析し、ビジネスの特性を知る必要もあるといいます。規模の経済が効く作物なのか。こじんまりやった方がいいのか。それによって戦い方が変わってきます。いちごの場合は規模の経済が効きにくく、大手と同じ土俵で戦うことができました。

さらに、農業の場合は地域のレジェンドや既存のプレーヤーとがっちり組まなければなりません。地縁血縁のサポートのない地域に生身で乗り込むと痛い目に合います。

岩佐氏は、センシングテクノロジを活用するなど農業のIT化を積極的に進めていますが、新技術を導入・実証する際は、その技術が「イシュー・ドリブン」、つまり問題を解決できるかどうかで選定すべきだといいます。ドローンを何かに使えないか、といった「テクノロジドリブン」で技術を導入すべきではないのです。

一方、通年作物ではないいちご農業で雇用を継続するため、岩佐氏は、いちごシャンパン、いちご化粧品など、商品の6次化にも取り組みました。その瞬間に競争相手は大手食品会社になります。このとき、戦術は「原材料調達コストの優位性」か「地域密着性」のどちらかになります。

グローバルマーケットも農業には重要で、岩佐氏はいちごのインド現地生産を開始しました。海外生産は中長期の視点が欠かせず、少なくとも5年投資し続けられる覚悟が求められます。投資のボリュームも中途半端では機能せず、一気に投入する必要があります。

加えて、ひとつぶ千円のいちごのブランド化に成功したといっても高付加価値品ばかり売ろうとしてもマーケットは限られる、と岩佐氏。コスト力も重要で、ボリュームゾーン商品の生産に注力して、それを販売するためにハイエンド商品を磨き続けている、と同氏は言葉に力を込めました。

起業家として大事だと考える経営哲学

このセッションでは、同氏が起業家として重要と考えている5つの哲学についても披露されました。

その1 脱ステップ論
これまでは“まずは日本市場、その次に海外進出”という段階を踏む手法がビジネスでは最善とされてきましたが、今日では“世界の中の日本、世界の中の自社がどういう存在か”を考えることが重要で、日本よりも世界へ出ていった方が速くビジネスが立ち上がることもあります。「なんとなく決められたルールを盲信しないように」と岩佐氏はアドバイスします。

その2 極を取る
これは賛成か反対か、自分の立場をはっきりさせ、そこで出る批判も甘受するという考え方です。「日本人は毒にも薬にもならない発言をよしとしがちですが、そこには成長も勝算もありません。人間は批判にさらされる状態に置かれたとき、最も成長するもの。ただし、人間関係を壊すこともあるので『極を取る』テーマはしっかり選んでください(笑)」(岩佐氏)

その3 マルチパラレルリーダーシップ
自らと真逆のタイプの人と数多く出会うことでイノベーションのきっかけをつかむことです。一人きりでまったく新しいことを考えるのは困難で、都会の人なら地方の人と話し、効率至上主義の業界に身をおいているならアーティストや職人に会うなど、そのような出会いを複数持つことでひらめきの機会を作り出せ、というわけです。

その4 PDPDPDCA
PDCAは最強のビジネスフレームワークながら、今日は情報量が膨大で、スピードも速くなっているので、シンプルにPDCAを回すだけでは追いつかなくなっています。そのため、いくつものPDを同時並行で進め、よさそうな芽が出てきたところを育てていくという手法を取ります。岩佐氏は“タマ数を増やす”と表現。たとえば、いちごの最適品種を見極めるため、一度に約60種を植えてみるといったことをしているそうです。

その5 脱リソース論
「リソースというものは行動の後についてきます。計画を立てたら、スモールアクションでいいから動いてみる。まず行動です。この順番は決して変わりません。私の場合も、小さなビニールハウスを建て始めたら、周りの人々が助けてくれるようになりました。No Action,No Future、小さくてもいいからプランを立てたらプラス一歩。これを覚えて帰ってください」

最後の質疑応答タイムでは、参加者から「いちごのブランド化をどのように成功させたのか」「問題解決型でのIT活用、技術採用のポイントは何か」「この先、さらにビジネスをスケールさせるためにどのようなことを考えているか」「雇用の創出という観点で現状の実績はどうか」など、具体的かつ鋭い質問が引きも切らず飛び出し、その一つ一つに岩佐氏は丁寧に回答。閉場時間ぎりぎりまで同氏と参加者との対話が続いていました。

・ゲスト

岩佐 大輝 / 株式会社GRA代表取締役CEO

1977年宮城県山元町生まれ。
大学在学中にIT会社を起業。2011年の東日本大震災後には、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。先端施設園芸を軸とした「地方の再創造」をライフワークとするようになる。イチゴビジネスに構造変革を起こし、ひとつぶ1000円の「ミガキイチゴ」を生み出す。現在日本およびインドで6つの法人のトップを務める。

著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『甘酸っぱい経営』(ブックウォーカー)がある。

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