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【イベントレポート】ビジョンと武器を携え、自分らしく働く。女性起業家リテラジャパン代表取締役 西澤真理子

起業を支援する「Startup Hub Tokyo」では、定期的に起業に役立つセミナーやイベントを開催しています。2017年5 月11日には「コミュニケーション力で起業する!-好きを仕事にする女性起業家に学ぶ-」を開催。

本イベントは、自分の好きなことを軸に活躍されている女性起業家の方とともに、女性の働き方や起業について考えるための女性限定イベントです。

第1回目となる今回は、リテラジャパン(株式会社リテラシー)の代表取締役の西澤真理子さんをゲストにお迎えしました。西澤さんの専門であるリスクコミュニケーションや、研究者を経て起業に至るまでの道のり、そして働く上で大切にしている考え方について、お話を伺いました。

不確実なものに対する人々の不安を取り除く”リスクコミュニケーション”とは?

リテラジャパンが主要な事業として取り組んでいるのは、コミュニケーションの場をデザインすること。なかでも、身の回りのリスクについて一般の人にわかりやすく伝える”リスクコミュニケーション”を専門としています。リスクをわかりやすく伝えるとは具体的にどういうことなのか、西澤さんは次のように説明します。

「世の中にはリスクという不確実なものがたくさんあります。例えば、2011年に原発事故が起きた際、放射線の危険性について情報が錯綜していました。安全とは言い切れないグレーなものについて、専門家が『何パーセントの確率で安全』と伝えても、一般の人にとっては危ないものに見えて不安を与えてしまう。不安を必要以上に大きくしないためには、一般の人にリスクの中身と対処法をわかりやすく伝える『リスクコミュニケーション』が必要。そのお手伝いをするのが私の仕事です」

研究者を経て起業へ、転換期の不安を支えた恩師の4つの言葉

西澤さんは、子どもの頃から「自分のお金で自由に海外の世界を見たい」と夢を抱き、大学ではドイツ語を専攻。卒業後はドイツで就職しました。その後、ロンドンの大学院に進学して、リスク政策とコミュニケーションの研究に従事。博士課程取得後はドイツで6年間研究者として活動されます。約10年間海外で活動した後、36歳のときに日本へ帰国して1ヶ月後には起業。西澤さんは当時のことを「勢いでしたね」と笑いながら振り返ります。

「海外ではリスクコミュニケーション分野で働く知人が多くいたので、自分にもできるだろうと思い、日本で起業をしました。けれど、そもそも私は修士課程からコミュニケーションを専攻し始めたので、人のつながりも手がかりもゼロ。まずは、お客さんを探すことから始まり、そう簡単ではありませんでした。それでも、徐々にリスクコミュニケーションの需要が高まっていた食品業界を中心に仕事を受託。そこから科学技術に関するシンポジウムの企画や医療についての有識者会議のモデレーターなど、リスクコミュニケーションの分野で仕事の幅を広げられるようになっていきました」

変化に富んだキャリアを積まれてきた西澤さんは、迷いを抱えた時に大学時代の恩師である石井米雄さんからもらった4つの言葉を支えにしていたそうです。

「1つ目は自分の中で『一貫性があればいい』ということ。2つ目は、『引き出しを一度に開けない』こと。3つ目は『敵を作らない』こと。4つ目は『自分はこれが得意と言える武器を持つ』こと。この4つの言葉を支えにしてきました。とくに1つ目の言葉は大きな支えになりました。一直線にキャリアアップしていく人もいれば、商人のようにさまざまな仕事をしながら成長をしていく人もいる。周りが何と言おうと自分の中で筋が通っていたからこそ、安心して自分の行きたい道へ進めてきました」

また4つ目の言葉は、西澤さん自身がロンドンで研究生活を送っていた頃身をもって経験したといいます。

「ロンドンで博士課程1年目のとき日本円が大暴落。わたしは生活が成り立たなくなり、一時帰国を余儀なくされました。ただ、ここで諦めるわけにはいきません。何か研究に戻るための手段がないかを探っていたところ、見つけたのがドイツの国費奨学金の募集でした。そこで大学から学んできたドイツ語を活かし、奨学金の審査に突破。無事に研究へ戻ることができました。ドイツ語が自分のピンチを救ってくれたんです。無論武器は語学でなくても構いません。例えばワインに詳しいとか趣味でも何でもいい。『自分はこれが得意』と言えるものを持っておくことが大切です」

運とフォルクスワーゲン。良い仕事をするために欠かせない2つの考え方

さらに、西澤さんが働く上で大切にしている2つの考え方についても共有してくれました。会場のスライドには「運って何だろう?」という言葉が映し出されます。

「私が憧れている字幕翻訳家の戸田奈津子さんがインタビューで “Luck is where preparation meets opportunity.”とおっしゃっていました。日本語に直訳すると『幸運とは準備がたまたま機会と出会った時だ』を意味する英語の格言です。私は、この言葉はその通りだと思います、心の底から。自分の周りで成功されている方を見ると、男女関係なく準備をしている。時間やコスト、相手を気遣う気持ちを絶対にケチらないんです」

次のスライドには、自動車メーカー「フォルクスワーゲン」のロゴマークが映し出されました。VにWが重なったロゴマークには、良い仕事をするために欠かせない要素が隠れている、と西澤さんは語ります。

「私がしたいのは、車の話ではありません。私にとって、『フォルクスワーゲン(VW)』というロゴマークが印象的なのは、IPS細胞の研究で知られる山中教授がアメリカに留学されていた頃に、研究室の先生から贈られた言葉だからです。このロゴには、Vision(ビジョン)とWork(ワーク)が重なって良い仕事ができるという意味が込められていると、研究室の先生は山中教授にこの言葉を贈ったと伺っています。何でもがむしゃらに行うのではなく、どのような世界を作りたいかというビジョンを持たないと疲弊してしまう、というメッセージが込められているそうです。ビジョンとワークが揃っているかどうかは、私自身も働く上で常に意識するようにしています」

自分にあった働き方でやりたいことを実現するなら、苦労は必ずついてくる

トーク後の質疑応答では、西澤さんの働き方や「起業」という選択肢について、より具体的な質問が飛び交いました。ここではいくつかのQ&Aをご紹介します。

Q:研究者から起業家というのは大きな転換だったと思うのですが、まったく新しい世界に飛び込んでやってこれた理由は何でしょうか?

西澤さん「大切にしているのは人との関係性です。ご縁があるかもしれない人との出会いは、直接仕事になってもならなくても、ないがしろにはしない。出会いのなかから、『機会と準備が出会う場』が生まれると考えているからです」

Q:起業してよかったことや大変なことはありますか?

西澤さん「自分が全ての責任を負う立場であることです。会社員時代の不自由さから解放された分、自分でやらなければいけないことは圧倒的に増えました。

けれど、自分には今の働き方が一番合っています。なぜなら、自分が想いを持てることに全力を注げるから。やりたいことを実現していくのであれば、苦労はセットだと捉えています。そうやって12年間事業を続けることができました」

自身のビジョンとパッションを追求するための手段として起業を選んだ西澤さん。周囲や自分にいつも誠実に向きあい、けっして変化を怖がらず、自ら決めた道を歩み続ける姿勢は、きっと何かに挑戦しようとするすべての女性に指針を与えつづけていくはずです。

Startup Hub Tokyoでは、起業を検討している方向けに知識やノウハウを提供するイベントを定期的に開催しています。起業を検討している方は、ぜひ足を運んでみてください。

・ゲスト

西澤 真理子(にしざわ まりこ) / 上智大学外国語学部ドイツ語学科卒。銀行、製品安全コンサルタントを経て、英ランカスター大学環境政策修士号、インペリアルカレッジ・ロンドンにて博士号を取得(PhD in Risk Policy and Communication)。ドイツ学術交流会(DAAD)国費奨学生として、ドイツ・バーデンビュルテンブルク技術アセスメントセンター客員研究員。フンボルト財団ドイツ政府国費研究員、シュトゥットガルト大学環境技術社会学科プロジェクトリーダーなど、10年のイギリスとドイツでの研究生活を経て2006年帰国。リテラジャパンを設立。現在、東京工業大学、筑波大学非常勤講師。総務省、厚生労働省、東京消防庁、科学技術振興機構、日本学術会議、日本学術振興会の委員。IAEA(国際原子力機関)コミュニケーションコンサルタント。2011年には福島県飯舘村アドバイザー。単著 に『リスクコミュニケーション』(2013 エネルギーフォーラム新書)。国内外での講演、論文多数。

執筆:向晴香(inquire)

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