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【イベントレポート】身近な課題への「想い」が起業の出発点。女性の多様な仕事と暮らしを支える非営利型株式会社「Polaris」

起業を支援する「Startup Hub Tokyo」では、定期的に起業に役立つセミナーやイベントを開催しています。2017年6月30日には「女性同士の起業と多様なリーダシップの取り方 」を開催。

本イベントは、自分の好きなことを軸に活躍されている女性起業家の方とともに、女性の働き方や起業について考えるための女性限定イベントです。

第2回目となる今回は、多様な働き方を支える仕組みを提供する非営利型株式会社Polaris代表の大槻昌美さん、創業者の市川望美さん、取締役の野澤恵美さんをゲストにお迎えしました。Polarisが取り組んでいる事業内容や組織のあり方、3人が起業に至るきっかけについてお話をお伺いしました。

地域の中で女性の多様な働き方を実現する「Polaris」の取り組みとは?

Polarisがミッションに掲げているのは「未来におけるあたりまえのはたらき方をつくる」こと。女性の働き方にまつわる課題の解決と、地域×女性による新たな価値の創造を目指し、組織運営や拠点運営を行っています。

まずは代表の大槻さんから、Polarisの事業の背景にある、働きたいけど働けない女性の現状について語っていただきました。

大槻「子どもを預ける先がない、まとまった時間が取れない、自分のスキルに自信がないなど、さまざまな事情で働くことを選択できない女性がたくさんいます。自身の能力を発揮する場がない女性に『この仕組みがあれば今すぐ働ける』と、前向きな想いを抱いてもらえる。その仕組みを生み出すのがPolarisの役目です」

Polarisの主な事業は、コワーキングスペースなどの拠点運営、オンラインで仕事を受注できる「セタガヤ庶務部」の組織運営、暮らしの情報を価値に換える「くらしのくうき」のサービス運営です。

コワーキングスペース事業の目的は、子育て中の女性が暮らしの延長で働ける場を身近な地域に作ること。調布市内のコワーキングスペース「cococi」では子連れでの利用も可能です。「セタガヤ庶務部」は、採点業務や音声起こし、データ入力、事務局業務やアセンブリー作業などといった業務をチームで実施するワークシェアの仕組み。現在280名以上の女性が登録し、場所や時間に制約されず「ゆるやかだけど本気で働く」を実践しています。

仕事を紹介する「セタガヤ庶務部」に対し、「くらしのくうき」は新たな仕事を創造する事業。地域に暮らす主婦が「暮らしの情報」を生かして仕事を得られるサービスです。業務内容は、不動産屋と連携して物件検討者に地域情報を伝える相談会の開催、引越し後のコミュニティー支援、あるいは販売前の調査など多岐にわたります。

Polarisがあえて主婦の方が持つ「暮らしの情報」に着目した理由について、市川さんは次のように話してくれました。

市川「育児で長年仕事を離れている間にスキルが古くなり、働けないと決めつけてしまう主婦の方は少なくありません。しかし、主婦の方たちは自分たちの暮らすまちの利便性や交通アクセス、コミュニティーの雰囲気などを誰よりも知っている。仕事を離れている間に培った”暮らしの情報”は間違いなく誰かの役に立ちます。再びスキルを身につけるために支援するのではなく、すでにある彼女たちの強みを活かすことで新たな価値を生み出せないかと考えました」

新しい働き方を作る、Polarisの組織作りとは?

多様な働き方をテーマに独自の事業を展開しているPolarisでは、自身の組織でも柔軟な組織作りを実践されています。市川さんが組織の特徴として一つ目に挙げたのはリーダーシップのあり方でした。

市川「リーダシップというと、ピラミッド型を想像される方が多いと思いますが、Polarisが採用しているリーダーシップは渡り鳥型とイルカ型の二つです。渡り鳥型では一番弱い人が先頭に立ち、イルカ型では最も得意な人がリーダーの役割を担うもの。例えば、一番新しく入った人にリーダーの役割を務めてもらう、プロジェクト毎に得意な人が交代でチームを率いることがあります」

得意な人に強みを生かしてもらう方法は、Polarisの3人が経営を進める上でも重視していることだそうです。

市川「Polarisの経営を担当してる私たちは個性も考え方も三者三様。私はいわゆる「鳥の目」担当で、長期的なプランや未来どうあるべきかといったビジョンを語る事が多い。大槻は「虫の目」担当。いつも現場で何が起きているのかを細かく観察してフィードバックしてくれます。そして野澤は「魚の目」担当です。人の繋がりや組織の流れなどの潮目を的確に捉える。3人が得意な視点を持ち寄って事業を推進していけるよう意識してきました」

リーダーシップに加え、Polarisの組織作りに欠かせないのが、メンバーが多様な関わり方ができる仕組み作り。市川さんは、北欧の話を例に挙げながら、Polarisにおける「多様な働き方」のあり方を語ります。

市川「大きなケーキを平等に分けるときに、日本では全員同じ大きさにカットしますが、北欧では全員にナイフを渡し、一人一人に選ぶ権利を与えるそうです。成果の平等なのか、機会の平等なのかといった違いであり、Polarisの考える平等は後者です。組織を構成するメンバーが自分で働き方を選べる組織でありたいと考えています」

自らの想いから始まる起業のあり方

強みや個性の異なるPolarisの3人に共通するのは、全員が子育てによる退職や働き方の見直しを経験していること。一度は働くことから離れていた3人がPolarisに携わるきっかけは何だったのでしょうか。まずは創業者の市川さんが立ち上げまでを振り返ります。

市川「わたしはIT企業に9年間勤務し、子育てを機に退職。利用者として参加していた子育て支援のNPOを手伝うようになり、気が付けば事務局を担ったり、理事になったりと、自然な流れで活動の中心に参画していました。ボランタリーな活動でしたが、自分たちが必要とするものを自分たちの手で形にしていく面白さを感じることができました。

少しづつお金も動くようになっていきましたが、そこで強く感じたのが、金銭的な理由で辞めていく仲間を見送るもどかしさ。教育費にお金がかかるようになると外に働きに行ってしまう先輩たちを見てとてももったいないと思いました。地域や子育ての活動に携わる層がもっと厚くなるには、利益を出して継続できる活動を作らなければならない。そのために立ち上げたのがPolarisです」

創業者の市川さんに誘われてPolarisに創業時から参加した大槻さん。起業をしたいと強く意識したことはなく「想いを持った人たちに自分が役に立てるのであれば」と行動を積み重ねた先にPolarisと出会いました。

大槻「出産を機に退職し、もう一度働きたいけど自分はどんなことができるのか悩んでいた際に子育てひろばで出会ったのが市川です。身近な地域の中から仕事を作る市川から学んだのは、会社に属さなくても、地域で人の役に立ってお金を稼げるということ。

その後、子育てをしながらNPOに参画する中、育児と仕事の両立について問題意識を持つようになりました。自分はご縁があったからこうして働くことができたけれども、他に同じような思いをしている人たちにも、仕組みとして機会を作ることができないか。最も貢献できる方法を考えた結果、Polarisの創業に携わる決意をしました」

現在は取締役を務める野澤さんも、自分の周りにある気づきをきっかけに起業という選択肢に出会ったと言います。

野澤「私は新卒で就職した会社を出産のため1年半で退職。出産後は企業に属して働いたり、知人に依頼されてデザイン関連の仕事をしながら、2足のわらじ的な働き方をしてきました。市川とは子どもが同じ保育園だったことが縁で知り合い、その後ちょっとしたきっかけと好奇心でプロボノとしてPolarisを手伝うことになりました。

Polarisを通して出会ったのは、『主婦』と一言では到底表せないほど、多様な能力を持った女性たちでした。個性も能力も異なる彼女たちとの関わりを通じ、より多くの女性に自分らしく活躍する場を提供したいという想いが生まれました。そのために私ができることは何かを突き詰めた末に、Polarisに経営側として参加する道が開けたんです」

フリーランスとして働いていたものの、自身が起業をするとは思っていなかったという野澤さん。女性が起業をする上では『自分の想い』が鍵になるのではと話します。

野澤「Polarisでも起業についての講座を開くことがあるのですが、女性の場合、自身の抱いている課題意識に基づいて行動し続けたら、気づかないうちに起業になっていたケースが多い。私にとっても、起業は自分の想いを具現化する手段であり、達成すべき絶対的な目標だったわけではありません」

創業者の市川さんも「その時々で課題だと思ったことに取り組む」ことを大切にしてきた一人。ただ、自らの想いを出発点に事業を作る上では、もう一つ無くてはならない視点があると言います。

市川「内部から生まれる想いと同じくらい重要なのは、外部から見た価値を常に意識することです。自分が構想した事業に対して第三者はどれだけの価値を感じてくれるのか。具体的にいくらお金を払ってくれるかという点から見直してみる。内に秘めた考えや想いを事業と形にするためには必須の作業だと考えています。

もちろん、今でも当事者として感じる『あったらいいな』に耳を傾けることは欠かせません。内に秘めた考えや想いを事業として形にする幸せは、自ら生み出すからこそ感じられると思うからです」

女性の働き方という自分自身も関わる課題を解決するために、起業を手段として選んだPolarisのお三方。身近な課題に真正面から取り組む姿からは、自分の想いに従って変化し続ける柔軟さ、そして課題の解決に向き合い続ける強さが伝わってきました。

Startup Hub Tokyoでは、起業を検討している方向けに知識やノウハウを提供するイベントを定期的に開催しています。起業を検討している方は、ぜひ足を運んでみてください。

・登壇者プロフィール

非営利型株式会社Polaris 経営メンバー

大槻昌美 代表取締役
自分主語の起業は全然ピンと来ないけど、仲間と一緒にゼロから形をつくっていく「チーム起業」ならどこまでも頑張れる、メンバーシップ型起業家。現在はPolaris第2創業に合わせ、フォロワーシップ経営に移行するため、組織の2代目代表として奮闘中。

市川望美 取締役ファウンダー
会社員(一般職・総合職)、個人事業主としての開業(青色)、地域子育て支援のNPO理事や合同会社代表社員、非営利型株式会社創業など多様な起業のカタチを経験。ビジョン重視、インパクト重視の起業家タイプ。

野澤恵美 取締役
手に職を持ち、その時々にあわせて働き方を創る。自分がやりたいことよりも、やりたい人を応援したい。こんなやり方もあるよ、こんな方法もあるよと導く。自由を愛するフリーランス派。

執筆:向晴香(inquire)

カメラマン:馬場加奈子

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